シンガポール通信ー携帯戦線異状あり:サムスンの腕時計型携帯2

眼鏡型のウエアラブルコンピュータが、眼鏡を常時かけるという文化が人々の間に十分広がっていないが故に、そう簡単には普及しないだろうということを前回述べた。

それに対して腕時計型ウエアラブルコンピュータである腕時計型携帯電話は、より容易に受け入れられると私は考えている。それは、腕時計を常時身に付けるという習慣がすでに文化として根付いているからである。その腕時計にインターネットアクセス機能を持ったコンピュータを埋め込んで情報機器にするというのは、人々にとっても自然に受け入れられる流れではあるまいか。むしろ、腕時計という機器を単に時間を知るという目的のためだけに身につけるという習慣が、よくここまで普及しているなという考え方も出来る。最近の若い人達が時間を知るためにスマホを使い時計を使わなくなりつつあるというのは、それを裏付ける一つの流れと言っていいであろう。

その意味で、腕時計型携帯電話は普及の可能性があると考えられる。アップルも開発を行っていると言われているが、それをアップルに先駆けてサムスンが商品化したというのは大きなニュースである。スマホで世界最大のシェアを有しているとはいえ、それはアップルの後追いをしたに過ぎない。新しい機器を開発して世の中に普及させてこそ先進的技術の会社であると認められる。その意味では腕時計型携帯電話の成功の可否は、サムスンの将来を決めるかもしれないと私は思っている。

それでは、サムスンやアップルが商品として提供しようとしている腕時計型携帯電話が普及するには、どのような条件が必要であろうか。そのために必要な第一の条件は、まず時計らしくする事であろう。先にも言ったように、人々の日常生活における文化を一挙に変えるというのはそう簡単な話ではない。それは徐々にでないと成功しないものである。

たとえば現在のサイズの携帯電話の最初の形態である小型の携帯電話が出現してからも、人々がそれを使って公共の場で通話するようになるには、数年の時間を要したのではないだろうか。しかも小型の携帯電話が現れる前には、持ち運びは出来るにせよ大型の携帯電話(日本ではショルダーホンと呼ばれた)の時代がしばらくあった上でのことなのである。

このことから、腕時計型携帯電話はまずは時計に近い形状をしており、通常は時間を表示する事を主とした機能を持っている事が必要と思われる。いきなり現在のスマホのようなインタフェースを持ち込んでも、なかなか人々には受け入れられないであろう。サムスンは腕時計型携帯電話を、スマホの補助機器のようにして使う事を考えているらしい。つまりスマホ本体を鞄の中などに入れておいた時に、メールや通話の着信に使ったり簡単なメールのチェックなどの、スマホの補助的な使い方を当初は考えていると言われている。

これは正解であると思う。既に成熟の域に達していると考えられるスマホの機能やインタフェースを、いきなりスマホよりはかなり形状の小さい腕時計型携帯電話に持ち込んでスマホに取って代わろうと思っても、人々に受け入れられるのは難しいであろう。そしてそうであればなおさら、人々が既になじんでいる時計の機能、時計型インタフェースを取り入れるべきであると考えられる。

さてここまで書いて来ると、腕時計メーカーはこのような動きをどのように考えているのだろうという疑問が生まれてくる。現在のところ、時計メーカーからは腕時計型携帯電話の商品化に対して特に明らかな動きはないようである。どうせ腕時計型携帯電話はそう簡単には普及しないだろうとたかをくくっているのだろうか。としたらそれは危険である。

腕時計型携帯電話の出現は、時計という時間を私たちに知らせてくれる単機能の情報機器が、メール・webサーチなどの種々の情報の取得と処理さらには送信の機能を持った総合情報機器に変貌する(もしくは取って代わられる)きっかけになる可能性が大きいことを意味している。通話という単機能を持った従来型携帯電話が、スマホという通話はその一つの機能に過ぎない総合情報機器に取って代わられたのと同様の事が起こる可能性が大きいのである。

そうであれば、これまでの腕時計メーカーは危機感を持つべきであろう。サムスンを始めとするスマホメーカーと共同研究開発を行うなどにより、従来型腕時計とスマホを統合した最適な携帯電話を作り出す方向にすぐにでも踏み出すべきである。そうでないと従来型腕時計メーカーは生き残る事が困難であるといってもいいであろう。