シンガポール通信ー携帯戦線異状あり:NECとパナソニックのスマートホン事業撤退

現在再び日本に数日間の予定で帰国している。やっと日本も猛暑の夏が過ぎたようで、日中・夜ともずっと過ごしやすくなっている。今年の夏は、毎日がシンガポールを優に上回る最高温度でしかも湿度がシンガポールより高いと来ているので、私がシンガポールで会った多くの日本からの旅行者が、日本の夏よりシンガポールの方が過ごしやすいという感想を漏らすという不思議な現象が生じた。一方シンガポールは、雨期でもないのに一日中じめじめと雨が降るという、かっての日本の梅雨の時期のような天候の日が多かった。たしかに全地球的な規模での天候異常という現象が生じつつあるようである。今後どうなるのだろうという不安を抱かせる天候異常である。

さて最近の話題として、携帯電話の業界で大きな変動が生じつつあるといえるのではないだろうか。何か新しい状況が生じるたびにマスコミなどがいろいろと騒ぎ立てるが、実は私自身はそれらの変化は大きな流れの中で見るべきであって、個々の状況に振り回されるべきではないという立場をとってきた。そして個々の流れの底にある大きな流れを見ると、実はそれは過去の歴史の中で生じた事の繰り返しである事が多いという事を主張して来た。

たとえば最近のスマートホンの普及に伴い、若者・子供は言うに及ばず多くの成年の人達が一日中スマートホンにかじりついているという状況が生じている。マスコミや識者の多くが、これは携帯そしてスマートホンによって作り出させた全く新しい現象であって、何らかの対策をとる必要があると騒ぎ立てている。しかし私はこれを、「人の考え方・行為が論理的な考え方・行為から感情的な考え方・行為へと移り変わりつつある」という大きな流れの中でとらえるべきであると考えている。

人間の歴史は、感情的な思考・行為から論理的思考・行為へと移行してきた(もっと正確に言うと移行させようとして来た)歴史である。その意味からすると、現在起こっている事はその逆の流れ、言い換えると先祖帰りが生じている事を意味している。そのような流れは必然なのだろうか、もし必然だとしたら、どのような方向へと導いて行く事が正しいのかという、大きな立場から考えるべきではないかというのが私の主張である。まあ一言で言うと「天が下に新しきものなし」という悟ったような考え方になってしまうが。

とはいいながら、ここ1、2ヶ月間に携帯の世界で起こっている事は、いかにも急激な動きであると言わざるを得ない。まず最初は、NTTドコモが携帯の販売に関して、「ツートップ作戦」と称して、ソニーとサムソンの二機種のみを前面に出して販売しようとする方針を採用した事である。これまでのNTTドコモは、日本の携帯製造会社を横並びで平等にサポートするという長年の方針を取って来た。いわば日本の通信業界を牽引するという大所高所に立つ立場である。

その方針を変えた事は、NTTドコモがやっと自社の存続を目的とした競争優先の会社になった事を意味している。当たり前と言えば当たり前であるが、ドコモに限らずNTTの各グループ会社はこれまではやはり、日本の通信業界を自分たちが支えているという自負の基にビジネスを行って来たといえる。

それが、ソフトバンクKDDIとの熾烈な競争に巻き込まれる事により、自社の存続・発展を最優先とする資本主義的な会社になったのである。そしてその結果が、もっとも売れそうなスマートホンのみを扱うという経営判断につながり、そして検討した結果としてツートップとしてソニーのスマートホンとともに韓国サムソンのスマートホンを扱うという現実主義的かつ冷徹な判断へとつながったのである。

その影響はすぐ現れた。NECが自社のスマートホンの販売が急激に減少した事から、スマートホンの製造・販売から撤退するという事態へとつながった。これもビジネスの世界ではあたりまえのことではあるが、かっては従来型携帯でNo.1のシェアを持っていたNECがスマートホンの事業から撤退するというニュースは、通信業界に関係のある人達には大きなショックを与え、一般の人々にもある種の感慨を与えたと言っていいだろう。そしてそれに引き続きパナソニックも、スマートホン事業から撤退するという同様の経営判断を発表した。パナソニックはかってはNECと国内の携帯のシェア争いをした会社であり、NECパナソニックが共にスマートホンビジネスから撤退するというのは、正に栄華盛衰という言葉を地で行くようなニュースであった。

NECパナソニックがスマートホン事業から撤退するというニュースは日本国内では大きなニュースとして取り扱われたが、国際的には話題にもならなかったと言って良いであろう。ざんねんながら、NECパナソニックも海外でのスマートホン事業というのは全くないと言っていい程度の規模であるからである。かってNECの携帯電話が欧州で30%のシェアを誇っていた事を考えると寂しい状態であるといえるだろう。

ところがそのニュースを忘れさせるほどの大きなニュースが最近全世界を駆け巡った。マイクロソフトによるノキアの携帯事業の買収である。

(続く)