シンガポール通信ーシンガポール国立大学における人事評価システム

8月は日本では夏休みやお盆休み等で休みの多い季節であるが、シンガポールでは8月が新学期の始まる月なので何かと忙しい。忙しさにまぎれてここ2週間ほどブログを書いていなかったが、やっと一段落したので再開する事としたい。

私が忙しかったのは、一つは私が指導者になっている博士課程学生の何人かが博士論文を提出する時期になったので、彼等の博士論文に目を通して細部に至るまで修正等の指示をするなどで、彼等の面倒を見る必要があった事である。この事についてはまた別に書く事としたい。

もう一つ忙しかったのは、8月がシンガポール国立大(NUS)の人事評価の時期に当たっているためである。NUSでは、8月から9月にかけてNUSに雇用されている人全員の、年に一度の人事評価が行われる。大学で雇われている事務職やプロジェクトで雇われている研究者に加え、いわゆるFaculty memberと呼ばれる教授職(Assistant Professor :助教、Associate Professor:准教授、Full Professor:正教授)の人間も含めて全員の評価が行われる。

日本では会社では、雇用者の評価というのはほぼすべての会社で行われていると思われるが、大学ではまだほとんど行われていないのではないだろうか。日本ではいったんFaculty memberになってしまうと、自分の研究室を持ち他人から口出しをされる事はない仕組みになっている。

もちろん助教や准教授は、上の地位に上がるためにはそれなりの研究や教育活動を行って、日頃から教授陣にアピールしておいた方がいい。けれども正教授になってしまえば、何か大きな問題(例えば犯罪等)を起こさない限り、基本的には定年まで地位は安定している。そして周りから評価される事もない。給与も基本的には年齢に応じて上がって行く仕組みになっている。

それに対してNUSでは、たとえ正教授といえども毎年1回は本人が過去1年間に行った研究業務や教育業務に応じて評価が行われる。教授は自分が属する研究科の科長に評価され、科長は学部の学部長に評価され、学部長は研究担当の副学長に評価される。そして副学長や学長は企業の取締役会に対応する大学の理事会に評価される。

評価結果によって何が変るか。最も大きいのはボーナスである。日本では、年2回のボーナスというのがいずこの企業や公務員の場合も、ごく普通のシステムとして定着している。これは極めて日本的なシステムといわれているが、NUSでも年1回前年度の業績に応じて報奨金を出すシステムがあり、これはボーナスと呼んでも良いだろう。

日本のボーナスは、基本的には給与に応じてその何ヶ月分という事で会社内では一定の場合が多い。最近では業績に応じてボーナスを決めるシステムも導入されているようであるが、大半の企業の場合は一律に給与の何ヶ月分かということが決まっており、全員にこの基準が一律に適用されていると思われる。

それに対してNUSの場合は、人によって0から給与の数ヶ月分までまさに前年の業績によってボーナスの多い少ないが決まる。大学のくせに変動幅が極めて大きいと言う特徴がある。これは欧米の企業と同様の仕組みといえるだろう。0から給与の数ヶ月分まで変るのであれば、多くのボーナスをもらう事をめざして、仕事を一生懸命やるかという気になるのではないだろうか。

と同時に、翌年の給与も評価結果によって決められる。さすがに毎月の給与になるとボーナスほどの差は出ないとはいえ、0から人によっては数十%の給与の上積みもありうる。正教授クラスになると大きな変動はないが、特に若い事務員や研究者ほど前年の業績に応じて翌年の給与が決まる。

そして毎年の評価結果が積み重なって昇進に影響してくる。事務職の場合は細かく等級がわかれており、評価結果に応じて次の等級に昇進できるかどうかが決まる。若手の研究職の場合はそれほど大きな等級の変化はないが、Research Assistant、Research Engineer、Research Fellow、Senior Research Fellowなどの等級があり、評価結果によって上のクラスに昇進が出来る仕組みになっている。

そして当然ではあるが、助教や准教授が上のクラスに昇進できるか否かは、数年間の評価結果の積み上げの上に立って決定される。