シンガポール通信ースマートホン依存症候群は問題にすべきか?

スマートホン依存症候群(略してスマホ依存症)が最近話題になっているようである。スマホ症候群とはスマホを四六時中操作していないと不安になり、ある意味で自分たちの毎日の暮らし方に関してスマホに主導権を取られているような症状の事である。

特に最近は、子供を中心にスマホ依存症が広がっているとのニュースを目にする。一つの例として、最近厚生労働省が中高生約10万人を対象としたインターネット使用に関して行った調査で、中高生の約8%が強度のスマホ依存症である事が判明したとのことである。

またこれとは別に、総務省が中学生・高校生・大学生・社会人2600名を対象としたオンラインアンケートでは、高校生のスマホ依存の傾向が最も高く、高校生の約6割がネット依存傾向を持っているという調査結果が得られたとの事である。

また日本経済新聞オンライン版では「スマホチルドレンの憂鬱」という特集記事が掲載されており、兵庫県立大学の竹内和雄准教授がもう少し踏み込んだ調査に基づいた解説記事を書いている。

竹内氏は、大阪において小学生約1600人および中学生約1000人を対象とした調査を行い、対象を「携帯電話不所持」「従来型携帯(いわゆるガラケー)使用」「スマホ」使用の3つのグループに分けて「睡眠時間」「イライラ感」などに関するアンケート調査を行った。その結果として、睡眠時間が「不所持」「ガラケー」「スマホ」の順に短くなる事、イライラ感を持つ子供が同様に「不所持」「ガラケー」「スマホ」の順に多くなるなどの結果が得られたと述べている。

同様に竹内氏は、子供たちを対象として個別のインタビューを行い、子供たちがスマホを使ってメール、無料電話であるLINE、ゲーム、TwitterFacebookなどのSNSなどに多くの時間を使っていることがわかったとしている。さらに具体的な例として、寝床の中にまでスマホを持ち込みLINEやゲームをしている子供たちの例や、ある小学校で子供たちの間に「エロ動画」を見ることが広まった例などに関して述べている。

これらの記事を読む限りでは、「スマホが出現した事により子供たちの行動様式が大きな影響を受けている、これは過去になかった異常事態である、従って私達大人はこれを放置しておくのではなく何らかの対策を至急講じる必要がある」という受け取り方を私達読者はしやすい。もっと率直に言うと、記事を書いている側の人たちは、読者にそのような感想を持たせる事を狙っているととることもできる。

これらの調査結果そのものは事実であり、個別の結果はその通りなのであろう。しかしそこから上に述べたような結論が直接得られるのだろうか。これらの記事の著者は、アンケート調査の結果などのファクトから上記の結論にすぐに飛んでいるようであるが、私はそこにギャップがあると思っている。ファクトはファクトであろうが、それが持つ意味は冷静に考えるべきであって、これらのファクトから上記のような結論に早急に飛ぶべきではないと思うのである。

以下に、その理由について少し述べてみたい。第一に、本当にこれは過去になかった異常事態なのだろうかという事を考える必要がある。スマホが普及する以前に、すでに従来型携帯を使って、子供たちはメールの送受などに夢中になっていたのではなかったのだろうか。すでにその時に、多くの子供が四六時中携帯を肌身離さず持っており、寝床の中や風呂にまで持って行くという現象が生じていたという話を私達はニュース等でたびたび聞いたのではなかったか。

これらのすでに生じていた現象が少々沈静化しつつあった所にスマホが現れ、そのような現象が再熱化したと理解できないだろうか。従来型携帯が電話回線を介してインタネットに接続していたのに対し、スマホは直接インターネットと接続できる機能を持っている。さらには大画面やタッチインタフェースを採用している等の新しい機能を持っている。これらの新しい機能によって、スマホを用いることによって、従来型携帯に比較してネット上の情報の取得したり、動画を閲覧したり、さらには情報を作成し送る事などが容易になっている事は事実である。

現在起こっている事は、従来型携帯の使用に少々飽きていた子供たちに新しい機能を持ったスマホという新しい端末に接する経験を与え、そして子供たちがそれを操作することに夢中になるきっかけを与えたのではないだろうか。メール、SNS、LINEを使って子供たちが行っているのは結局の所友達と常につながっているというコミュニケーション行為である。そのようなコミュニケーション行為自体はすでに従来型携帯の時代に存在したものであって、現象としては新しいものではないと私は思っている。

(続く)