シンガポール通信—ドコモの「ツートップ戦略」は成功するか?—2

さてそのドコモの「ツートップ戦略」がうまく行くかどうかは私も興味津々で見守っていたのであるが、今朝の日経新聞のオンライン記事を読む限りは、残念ながら成功しているとはいえないようである。

ツートップ戦略で押した二つの機種が売れていないわけではない。いやむしろこの二機種は大ヒットだと言って良いであろう。ツートップに選ばれた二機種のうち、ソニーの「エクスペリアA」が100万台近く、サムソンのギャラクシーS4が50万台近く売れている。これらはいずれも単独の販売台数としては突出したものだという。

この台数だけをみると、ドコモのツートップ戦略は成功しているようにも見える。この二機種が売れているという記事は少し前の日経等の新聞で知っていたので、ドコモの携帯がソフトバンクKDDIの携帯のシェアを侵略しているのだろうかと類推していた。

しかしである。MNP(番号持ち運び制度)による各社の他社からの乗り換え件数と他社への乗り換え件数の数値を見ると、6月はKDDIが8万5000件の入超、ソフトバンクが6万件の入超なのに対して、ドコモは14万7000件の出超であることが報じられている。

この事が意味している事は明らかであろう。ドコモのツートップ戦略で起こった事は、ドコモのiモードユーザが従来型携帯(フィーチャーホン、通称ガラケー)からスマートホンに乗り換えたということなのである。

従来型携帯でiモードを長年使っているユーザは、iモードもスマートホンも機能的にはほとんど変わらない事を知っている。とはいいながら、周りの人たちがスマートホンに買い替えて行くのを見るとある種の焦りを感じるのではあるまいか。従って何かきっかけがあればスマートホンに買い替えようと考えていたユーザが多数いる事は容易にわかる。

実際私自身も「スマートホンなど要らない、従来型携帯で十分である」などと日頃公言しているとはいえ、何かのきっかけがあればスマートホンに買い替えたいなとは思っている。しかしメリットもそれほどないのに、最新のスマートホンを購入するのに多額の費用がいる事等で、逡巡しているというのが本当の所である。

今回のドコモのツートップ戦略は、まさにこれらのユーザにアピールしたのである。購入させるため、販売奨励金をこれらの二機種に限って積み増し特別価格で購入する事を可能にしたのである。この事はある意味で、ドコモが長年のiモードの忠実なユーザに対して「もうiモードは古いですよ、そろそろスマートホンに買い替えてはいかがですか、この二機種を購入されるならば特別お安くしておきますよ」という言い方でセールスをした事になるのではないだろうか。

従ってそのようなセールスは、KDDIソフトバンクの顧客に対しては魅力的には映らなかったのである。当然ではあるが、KDDIソフトバンクも多くの販売奨励金を用意して顧客を自社のスマートホンの購入に引き寄せようとしている。そしてKDDIソフトバンクiPhoneという魅力的な端末を持っている。たとえツートップ戦略の対象となった二機種がiPhoneに比較してより最新機種であるとしても、機能的にはほぼ同等と考えていいであろう。つまりユーザはこの二機種にわざわざ他社のスマートホンから乗り換えるだけの魅力を感じなかった事になる。

さてそれではドコモとしてはどうすれば良いのか。単純な解としてはドコモもiPhoneを取り扱うというのがあるが、ドコモは現時点ではそれをする予定はないようである。日本の携帯電話市場を牽引して来たドコモとしては、アップルというパソコンの領域で伸びて来た企業に頭を下げるのを良しとしないプライドがあるのであろう。それはそれでいい。しかしそれならば、技術力を誇るドコモとしては今後の携帯業界をどの方向に牽引しようとしているのだろう。そこがどうも良く見えない。

ドコモはアップルのiOSやグーグルのアンドロイドOSに対抗してタイゼンというOSに基づいた携帯の開発を進めているらしい。しかしすでにどのOSが携帯OSとし優れているかを議論する時代ではない。それで実現される新しいサービスこそがユーザが求めているものであろう。

スマートホンも普及が一段落して、それが提供できる新しいサービスと同時に提供されるサービスの限界もユーザはわかって来ている。したがって、そろそろユーザはスマートホンの次のデバイスを求めつつあるのではあるまいか。グーグルがグーグルグラスを開発しており、またアップルも腕時計型端末の開発を進めているというのはそのようなユーザのニーズを踏まえての事であろう。ぜひともドコモには、iPhoneを取り扱うか否かという次元の話ではなく、次世代携帯の開発でアップルやグーグルに対抗してもらいたいものである。