シンガポール通信ードコモの「ツートップ戦略」は成功するか?

NTTドコモがスマートホンの販売に「ツートップ戦略」というのを導入して、ライバルであるソフトバンクKDDIに対抗しようとしているが、果たして成功するだろうか。

ドコモの「ツートップ戦略」というのは、ドコモが販売するスマートホンのうち主力機種を二種類に絞りその二種類の機種の販売に全力を挙げる事により、ドコモ全体での販売台数を増やしライバルに勝とうという作戦である。ここで二種類とは、ソニーのエクスペリアシリーズの最新機種である「アクスペリアA」とサムスン電子のギャラクシーシリーズの最新機種「ギャラクシーS4」のことをさしている。

これは、ドコモのこれまでの販売戦略と比較してもかなり特異な点を持っている。これは一つには対象機種を二種類に絞るという作戦を取っている事であり、もう一つには「ツートップ」の機種の一つに日本のメーカーではなくて韓国サムスンの機種が選ばれている事である。

ドコモは日本の通信政策を牽引するというNTTの政策を引き継ぎ、これまでは日本の主流メーカーの携帯電話をまんべんなく販売するという戦略を取って来た。そのために、自らの開発した技術に基づいて新しい携帯電話の仕様を決めると共に、国内の各社の携帯電話の開発をウオッチしながらそれぞれのメーカーが独自色を出せるような開発・販売政策を取って来た。

つまり携帯電話の開発・販売を国家戦略としてとらえ、ドコモが携帯電話の新技術そしてそれを用いた携帯電話のプロトタイプの開発を行い、その技術を携帯電話メーカーに開示し、携帯電話メーカーがそれに独自技術を加えて携帯電話を製造するという戦略を取って来たのである。さらには販売に当たっても、製造メーカーからドコモが購入してそれらの全国のドコモショップで販売するという戦略を取って来た。いわばドコモと携帯電話メーカーが一体となってビジネスを行うというモデルである。

これはいわば「八方美人戦略」であるが、少なくともスマートホンが現れる前はその進め方で成功して来た。それが「ツートップ戦略」という戦略を取らざるを得なくなったということは、上に述べたドコモが開発も販売もメーカーを指導しながら全メーカーが生き残るという作戦がとれなくなって来た事を意味している。それはやはりiPhoneの出現による所が大きいであろう。そしてそれにアンドロイドOSとアンドロイドホンが続いた。iPhoneとアンドロイドホンは、携帯電話のインタフェースと機能を標準化してしまった。そしてそれは世界標準なのである。

iモードに代表されるインターネット接続機能を特徴とする携帯電話は日本が作り出したものであって、それが日本では大きな成功をおさめ、この間までの日本標準であった。そしてそれによって、ドコモが国内の携帯電話メーカーを指導しながら各社に独自の機能を持った携帯電話を製造させることにより国内市場をコントロールする事が可能であった。しかしiPhoneとアンドロイドホンの作り出した国際標準は、日本国内だけを見て考えれば良いという従来型ビジネスモデルを破壊してしまったのである。

残念ながら日本的な意味での機能満載の従来型携帯の成功に気を良くしていた日本の携帯電話メーカーは、スマートホンに乗り換えるのに遅れてしまった。そしてそのため、本来細かい所にまで気を使ったデザインの得意な日本の携帯電話メーカーが、スマートホンでの優れたデザインの開発に遅れをとり、サムソンという韓国のメーカーのスマートホンのデザインが優れている故にドコモがツートップの一つの機種として加えざるを得なかったという結果につながるのである。

よく言われる事であるが、iモードとスマートホンは機能的な観点から見るとほぼ同じである。1999年にサービス開始されたiモードはインターネット接続機能を用いてメールを読む事も出来たし、現在のスマートホンで提供されているような種々のアプリケーションも提供されていた(ただしインターフェースが統一されていないために、使いにくいアプリケーションが多かったが)。日本の携帯電話ユーザの多くは、iモードの頃から携帯電話でメールを読む習慣を身につけて来たといっていいであろう。そしてそれに伴い「親指入力」のような携帯特有の入力法が現れたわけである。

私自身もiモードサービスが始まってしばらくは、携帯でメールをチェックするという習慣を持っていたことを覚えている。しかし私の場合は、携帯でメールをチェックするという習慣はしばらくして止めてしまった。それはやはり、携帯で送れるメッセージ内容が簡潔なものに限られるので、仕事で必要とするような長い複雑なメッセージのチェックや送信には携帯電話は適していないと考えたからである。そしてそれは現在も私がスマートホンを持たずに従来型携帯(ガラケーなどと蔑視的に呼ばれるが)で良しとしている理由でもある。

(続く)