シンガポール通信ーskypeの普及はテレビ電話が普及する事を意味しているのか?

以前にオーム社から出版した私の著書「テクノロジーが変えるコミュニケーションの未来」を、Springerから出版するために現在英語に翻訳している。(ベストセラーだと出版社で翻訳してくれるのだけれども、残念ながらベストセラーにはならなかったため、自分で翻訳しなければならない。)

一応翻訳作業を終えたので、現在Springerの編集担当者がチェックしている。ところが、私が著書の中で主張している「テレビ電話が普及していないのは十分な理由がある、それは音声だけを使った電話というサービスに画像を加えてもメリットが少ないからである」という部分に関して、担当者が少し違うのではないかと意見を出して来た。彼が言うのは、skypeが普及しつつある現在では状況が変わっており、テレビ電話(一般には「ビデオ通話」と言われる事が多い)は普及しつつあるのではないかという事である。少し考えてみたけれども、以下のような意見として返そうと考えている。

これまで音声通話に映像を加えたビデオ通話は、テレビ会議などのビジネス向けのサービスでは用いられているものの、携帯電話を使ったコミュニケーションなどの日常会話ではほとんど用いられてこなかったという事を私の著書では主張した。これに対して最近。インターネットを使って音声と画像を同時に送るインターネットビデオ通話が人々の間で使われ始めるようになった。Skypeマイクロソフト)、google+(グーグル)、Facetime(アップル)などがその代表的なものである。これと筆者が主張して来た事とは矛盾しているのだろうか。

つまり、これらのビデオ通話が使われ始めているという事は、はたしてこれまで遅々として普及してこなかったテレビ電話がやっと普及し始めた事を意味しているのだろうか。私はそうではないと考えている。ビデオ通話と称しているけれども、これはあくまでインターネットを用いて電話を可能にするサービスとしてとして出発し、それに画像が加わったものと解釈できる。
ひとびとがなぜskypeなどのビデオ通話サービスを使うのだろうか。それは無料だからである。インターネットにアクセスできるという条件が必要であるが、それでも電話が無料でかけられるというメリットは大きい。従って人々はまず無料電話という意味でskypeを使い始めた。インターネットに接続可能な電話(スマートホン)が普及する前は、skypeの使い方は、パソコン用いて相手とskypeにより会話するという使い方が通常であった。

パソコンを使うという事から、当初はどちらかというとビジネスを目的とした会話に使われるのが普通であったし、今でもそうだと思われる。私もskypeを使うのは、海外の研究者と研究に関する打ち合わせなどに使う事が多い。またskypegoogle+では、多人数が同時に会話できる会議モードも持っている。したがって私がよく使うのは、国際会議の委員の間で国際会議の運営方法の議論をしたり、投稿された論文の審査結果を持ち寄って最終的に採択する論文を決める際などに用いている。

1対1でskyepを使って会話をする場合は、たしかに相手の顔を見ながら会話するテレビ電話を使っているような感覚になる。しかしそれは、ごく親しい間柄で相手の顔を見ながらコミュニケーションを行うというよりは、むしろ知っているがそれほど親しい間柄でない相手との会話の際に電話だと間が持たせにくかったり、話し始めるタイミングをつかみにくかったりするのに対し、顔を見ながら会話しているとそのような問題がなくなるという理由による事が多い。

また、多人数での会話になると、画像は小さくなるため相手の顔の細部を見る事は出来なくなる。したがって、相手の顔という個人的な情報はあまり意味を持たなくなる。だれがしゃべっているのかということすらわかりにくい場合も多い。こうなると、これはこれまで電話ネットワークを通して行われていた電話会議サービスをインターネットに置き換えたものと同じであると考える事が出来る。

とはいいながら、skypeに代表されるインターネットビデオ通話が普及しつつある事は事実である。さて問題は、skypeに代表される無料インターネットビデオ通信が一般の人々の日常会話で使われるようになるだろうかということである。