シンガポール通信ー上田滋夢さん来所

先週金曜の午後に、上田滋夢さんが来所された。上田滋夢といえば、熱心なサッカーファンはご存知だろう。京都出身の元プロサッカー選手で大学在学中に渡英し、イングランド2部、イングランド3部、スコットランド1部で3季プロ選手としてプレーし、1988年3月に引退した。

多分、日本人サッカー選手でプロとして海外に出て行った選手の中では、もっとも最初に海外進出した選手達の一人であろう。

引退後は指導者として活躍されており、1980年代後半から90年代前半はスコットランド代表コーチなどを務められた。1990年代半ばからは日本に活躍の拠点を移し、日本サッカー協会・強化委員会委員、ビッセル神戸・強化部長、名古屋グランパスエイト・テクニカルディレクター、AS.ラランジャ京都副代表・代表・監督などを経験されている。また大阪成蹊大学の教授でもある。

私はサッカーとは全く縁がないし、サッカーの事もよく知らないので、大学の先生が研究のことで私と議論したいので来られるのかなと、最初は軽い気持ちであった。一応上田滋夢先生の専門などを調べておくかとネットでサーチしてみた所、上記のようにプロサッカー選手・サッカー指導者として赫赫たる経歴を持っておられる事を始めて知った次第である。

いろいろと話を聞いてみると、日本とシンガポールのサッカーの世界をなんとかつなぎたいという意図の基に活動されているとの事である。シンガポールのサッカーリーグにはアルビレックス新潟という日本人だけで結成されたチームがあるが(これも恥ずかしながら私は上田先生に聞いて始めて知った次第であるが)、ここに将来サッカー選手になる事をめざす少年達を短期間留学させ、国際的な感覚を磨かせるなどのことを考えておられるようである。

それではなぜサッカーとはゆかりのないNUSの私の所に来られたかというと、これらの若手を短期間留学させる際の宿泊施設として大学のゲストハウスが使えないかということであるらしい。シンガポールのホテルはいずれも宿泊代が高騰しており、市内だと一泊1万5000円いや最近では2万円以下でもなかなか見つからない。それに比較して大学のゲストハウスは確かに半値以下ではある。とはいいながら、NUSのゲストハウスを利用するにはNUSのイベントなどとの関わりが必要ではないだろうか。ともかくもこの件は私の方で調べてみる事とした。

この件は今後検討しようと言う事でそれ以外の話を始めたのであるが、ともかくも私に取っては新鮮で面白い話が多く、3時間以上も話し込んでしまった。かたや上田滋夢さんは体を使う活動が興味の対象であり、それに対して私の方は頭を使う活動が興味の対象である。興味の対象が異なるので話が噛み合ないのではと思えるのであるが、全くそのような事はない。

サッカーではともかく身体能力が高く動き回る事の得意な選手と、チームプレイをどうまとめあげるかというマネジメントにたけた選手の2種類があり、これらをどのように組み合わせるかがチームの強さを決めるとの事であるが、これは研究チームを組む時にも正に同じ事がいえると同感した。

また、身体スキルを学習して行く際には連続的に、スキルが上昇するのではなくてある種のジャンプがあり、それをどのように実現するかは結局の所自分で知る、いわば悟る事によってでないと行えないというのも納得できる話である。さらに、指導する側が行えるのは、正しい答えを教える事はできなくて、本人が正しい答えに到達するプロセスをサポートする事であって、このプロセスには情報処理技術が使えるのではないか、という上田さんの話には私も多いに賛成である。

上田さんが取り組まれているスポーツという体を使う活動と、私が取り組んでいるコミュニケーションという頭を使う活動の間で、共同研究の可能性が開けて来ないだろうか.今後も議論を続けましょうという事を確約して別れた。



上田滋夢さんと私。