シンガポール通信ーシンガポール政府要人の女性スキャンダル

オランダ、アイントホーベンからの帰途の飛行機の中で、シンガポールの新聞The Strait Timesを読んでいると、シンガポール政府の要人が女性問題で辞任したとの記事が載っていた。

辞任したのは、シンガポール政府のParliament Speakerを務めるマイケル・パーマー氏(Michael Palmer)である。Parliament Speakerというのは英語の肩書きだけからだとわかりにくいが、日本的に言うと国会議長である。シンガポールは日本と異なり一院制なので、国会議長は1人だけである。したがって、かなり高いポジションと考えていいだろう。

さて新聞によれば、パーマー議長は本人の地元選挙区にある国民協会の女性職員と不道徳な関係を持ったことを理由として、責任を取って辞任したとのことである。いわゆる不倫である。国民協会というのがなにをしているのかはあまりよく知らないが、多分シンガポール政府の与党人民党(PAP)と地域住民とを結び付ける役割をしているものと思われる。

日本流に言うと○○議員事務所に相当するものだろう。シンガポール小選挙区制であるが、各選挙区では立候補者個人個人に投票するのではなく政党に投票する。各小選挙区では政党ごとに複数の候補者を立てるため、最も多くの票を得た政党がその地区に割り当てられた議員数をすべて自分の党で取ることができる。したがって、個人個人の議員の活動をサポートする議員事務所ではなくて、政党ごとの事務所があることになる。この政党事務所が国民協会であろう。

パーマー氏は44歳。国会議長で44歳というのは、日本と比較するとずいぶん若い。したがって、将来はもっと上の地位が約束されていたと考えられるだろう。それがいわば自分の活動を支援してくれる選挙事務所の女性スタッフとの不倫により、その地位を棒に振ったわけである。新聞によれば、噂がネットなどで流され本人もそれを認めざるを得なくなったため、首相とも相談の上12日に辞任をすると共に記者会見をして、報告と国民に対するお詫びをしたということである。

さてこのニュースを読んでいて感じた事がいくつかある。やはりなんといってもその最たるものは、「シンガポール普通の国なのだな」という感想である。シンガポールはよく知られているように、現実的には一党独裁の国である。しかもマレーシアから独立した当時は貧しい小国であり、国としての存続そのものが問題であった。したがって最初の首相リー・カンユーは国民に厳格なルールの遵守を求めた。現在でも麻薬の所持はそのまま死刑につながる。またガムを国内に持ち込む事を禁止するという、ある意味で奇妙な法律さえある。

そのような国では、もちろん不倫はこれまで厳しく戒められて来たのであろう。しかも政府の要人である。私がシンガポールに来てからも、最近までこの種のニュースは全くといっていいほど聞かなかった。それが今年になってからちらほらと聞くようになり、その最たるものが今回の国会議長の不倫である。新聞でも今年はこの種の好ましくないニュースが何度か公になった年であると指摘している。

同様のニュースとして、今年初めに野党である労働党の議員が、同じような不倫事件により労働党を除名されるという事件が起こっている。この時は、与党人民党は労働党に対しそのような不適切な人間を党員としている事を強く非難したため、当初だんまりを決め込んでいた労働党も結局本人を除名せざるを得なかったという経緯がある。

今回はその事もあって、人民党としてはパーマー氏の辞任を認めざるを得なかったのであろう。 新聞によれば、本人はリー・シェンロン首相とも相談したが、最後は首相が辞任を認めたとのことである。また、同じく新聞によればパーマー氏は大変有能であり、その有能さを人民党に買われて若くして国会議長に指名されたとの事であるから、人民党としても有能な人材を失うわけである。

この2つが今年の女性問題に関する二大スキャンダルであるが、その他にもテレビを見ていると、シンガポールの政府や会社の要人が女性問題でスキャンダルを起こしている事が何度か報道されている。シンガポールの会社は国際企業を除けばほとんどが国と何らかの関係を持っているから、いってみればこれらのスキャンダルは、これまで厳格に規律・モラルを守ってこようとしたシンガポール政府やシンガポール社会内の規律が緩みつつある事を示しているのかもしれない。

(続く)