シンガポール通信ー講談社現代新書:池田純一「ウェブ×ソーシャル×アメリカ」
某出版社の方と最近のメディアの話をしている時に薦められた本である。この週末に読んでみた。
タイトルからもわかるように、インターネットの最近の状況に焦点を当てた話がこの本の主要な内容である。インターネットの最近の状況というと当然ではあるが、1つはGoogleのサービスの動向であり、もう1つはFacebook・Twitterなどのソーシャルネットワークの動向が重要な出来事であろう。
したがって、当然ではあるがGoogle・Facebook・Twitterに焦点を当てた内容である事が予想される。それがタイトルにあるウェブ×ソーシャルの意味であろう。しかしそのような内容の本は、それこそ山のように出版されているであろう。私も最近のメディアの動向には興味を持っているので、これに関連する本は目にとまる限り購入して目を通しているが、いずれも似たり寄ったりの内容でこのところ少々食傷気味である。
その意味で、この本も同様の内容かと最初は思っていたが、他の本とは異なった切り口から最近のインターネットさらにはメディアの動向に関して記述しており、大変興味を持って読み通す事ができた。それではこの本の内容の特徴は何かというと、最後の「アメリカ」にある。
Google・Facebook・Twitterなどの最近のメディアは、いずれもアメリカで作り出されて全世界的に普及してきたものである。もちろんそれに先立ってMicrosoftのWindowsがありそして最近ではAppleのiPhoneやiPadがある。これらも含めてインターネットやメディアの世界で最近注目されている出来事(それはハードもソフトもさらにはサービスも含めて)は、いずれもアメリカで作り出されたものである。(FacebookやTwitterはさらにはiPhoneやiPadは「発明」というには少し抵抗があるので、「作り出された」という呼び方にしておこう。)
いやもっというと、インターネットが現れて以来インターネットに関わるほとんどすべてのハード・ソフト・サービスはアメリカで作り出されている。それはなぜだろうというのは、1つの大きな疑問であるし私自身もそれを理由づけたいと常に思って来た。この本で筆者が明らかにしたかった事は、これではないだろうか。それが、アメリカがタイトルに加えられている理由である。つまりこの本は、最近のウェブやソーシャルネットワークの分野で起こりつつある事を、なぜそれがアメリカで作り出されたかという事に焦点を当てて明らかにしようということを試みたものだと言えよう。
この本の特徴は、それらの最近の出来事の源泉を1960年代のカウンターカルチャーに求めていることにある。そして1960年代にさかのぼって、カウンターカルチャーに関する主要な出来事を記述すると共に、それ以降の米国におけるインターネット・メディアの世界の歴史をその観点から眺めてみようとしている点にある。(実は最後のエピローグで唐突に、現在起こっている事の源泉をカウンターカルチャーに求める事が否定されるのであるが、それはまた後で議論する事してここではしばらく忘れておこう。)
カウンターカルチャーを代表する人物としてこの本はスチュアート・ブランドに注目している。彼は Whole Earth Catalog(全地球カタログ)の編集者として知られている。この本はヒッピー文化を紹介する雑誌であったが、この雑誌がヒッピーに代表されるカウンターカルチャーの1つの牽引役を務めさらにはカウンターカルチャーを当時勃興期にあったインターネットと結びつける役割をしたとされる。
また彼はAppleのスティーブ・ジョブスにも影響を与えた。「ウェブ×ソーシャル×アメリカ」の2章がスチュアート・ブラントや彼の活動の記述に当てられており、著者が彼の活動が現在のインターネット・メディアの世界を生み出した原動力になっていると考えている事が見て取れる。スチュアート・ブランドは1960年にスタンフォード大学を卒業した後西海岸を中心に活動し西海岸のカウンターカルチャーの中心人物の一人になって行く。
と同時に東海岸におけるこの時代の動きについても著者は触れている。特にゲーム理論の創設者でありノイマン型コンピュータの祖と言われるフォン・ノイマン、AIの創始者と言われるハーバート・サイモンなどをあげながら西海岸のカウンターカルチャーに比較するとより観念的ではありながら、コンピュータ・インターネットの発展を観念面・理論面で支えた東海岸の学者達の功績を記している。
ただしこの辺りの経過はなかなか複雑であり、著者の記述も時代が前後するので、ある程度事前知識がないとなかなか読者の頭に入っていかないかもしれない。もう少し整理された記述がされると良かったのにと思われるところである。
(続く)