シンガポール通信ー東京工業大学の学生招聘説明会

先週金曜に、東京工業大学東工大)の藤井信生先生がNUSに来訪された。NUSの学生を東工大へ留学生として招聘するために、NUSの学生を対象として東工大の紹介ゼミを行うために来訪された。

藤井先生は、電気回路・電子回路などいわば電気電子工学の主流分野でずっと研究を行って来ておられた方である。何冊もの電気回路・電子回路に関する専門書や教科書を執筆・出版されており、学会のみならず学生の間でもよく知られた方である。東工大の工学部長も一時勤められたと聞いている。2009年に東工大を定年退官され、現在は特命教授として東工大の国際連携関係の仕事に従事されている。

私自身は藤井先生との直接の面識はないが、私がよく知っている電子回路関係の会社の社長さんが藤井先生と親しいため、たまたま藤井先生がシンガポールに行かれる事を知って、私と会っておいたらと助言されたらしい。

金曜の午後4時から6時まで、NUSの会議室を借りて学生向けのゼミを行われるという事で、様子を見に行ってみた。NUSの学生数十人が参加して、藤井先生の説明を聞いたりいろいろと熱心に東工大に関して質問していたのが印象的であった。質問を聞いていると、授業が日本語で行われるのかとか、レポートは日本語で書かなければならないのかといった、大学生活を送る上での言語の問題に学生の関心があるようであった。

以前にこのブログでも書いたが、日本がシンガポールでどのように見られているかという点に関して、シンガポールの学生・研究者を対象としてインタビューを行った事がある。その結果は、日本が特殊な国かどうかに関しては、ポジティブな意味で特殊である(例えば独自の文化や人間同士のつながりの強さなど)という好意的な見方が多かった。ところが他方で、ネガティブな意見として、先進国中英語の通じにくいほぼ唯一の国であるという意見が多かった。

上記の学生の関心は、どうもこのことを反映しているようである。最近東工大に限らず日本の大学では、国際化が大きな目標になっているようである。国際化もいろいろなレベルがあるが、学生に占める留学生の割合が極めて低いので、それを高めようというのが1つの目標になっている。これは、少子化に伴い日本人の学生だけを相手にしているのではなく、積極的に海外からの留学生を呼び込もうという理由によるものであろう。

それ自身は結構な事と思われるが、個別の事例を見てみると各大学ともこの問題への対処にはいろいろと苦労しているらしい。現在のグローバル化の流れからすると、留学生に日本語の授業を受けされるというこれまでの方式を貫くわけにも行かず、英語での授業を増やして行かなければならない。ところが現時点では大半の学生は日本人であるから、日本人同士で英語で授業を行ったり受けたりということになるわけである。

このグローバル時代には英語を共通語にするべきだというわけで、社内公用語を英語にしてしまった楽天のような例もあるが、これは会社であるからできたわけで、学生相手の大学ではそこまで急進的な施策はとれないだろう。どのようにして日本語と英語を両立して行くのかは、なかなか困難な問題なのかもしれない。

もっとも楽天の社内公用語英語化は、どの程度順調に進んでいるのだろう。うまく行かないだろうと予測した私としては、順調に進んでいるようであれば謝らなければならないが。



藤井先生の説明を熱心に聞く学生達



説明会が終わった後で記念撮影。左から、東工大国際部スタッフの北島さん、私、藤井先生、NUS客員教授の渡辺先生。