シンガポール通信ー尖閣諸島問題を考える2

前回少し言い残した事があるので追加しておこう。

それでは、ある意味で政府が仕掛けている(と私は考えているが)デモや暴動に、なぜ民衆が簡単に乗ってしまうのであろうか。多分ここには現在の中国が抱えている問題が露呈していると思われる。

中国はついこの間までは、どちらかというと経済的には後進国であったが、急速な経済成長を遂げGDBではすでに日本を抜きさり、そのうち米国に迫ろうかという勢いである。それに伴い、中国国内の所得格差は極めて大きくなっていると考えられる。

富裕層の所得は、平均的な日本人の所得のそれを大きく凌駕している。北京・上海などの大都市における高級車は、ついこの間まで政府の公用車のみであったが、最近では富裕層が高級輸入車を乗り回しているのはごく普通の風景である。

私の知り合いの上海の大学の先生も、マンション経営で儲けたらしく、数年前に上海で行われた国際会議で出会った時に、彼がベンツに乗っているのに驚かされた経験がある。日本を団体で訪れる中国人観光客も、先導するガイドの後をぞろぞろついて行くところは単なるツアー客であるが、お目当てのショップではめぼしい商品を買いあげてしまう購買力を持っている。

しかし、これらはまだまだ一部の富裕層もしくは上流中間層であって、それ以下の層は富裕層との経済格差が広がる事に対して大きな不満を持っていると考えられる。それでも中国経済が成長路線に乗っている限りは問題ないが、最近の中国経済が失速気味であることからすると、彼等の収入が今後大きく伸びる事は期待できない事になる。

多分これらの中間層以下に属する人たちは、政府の政策に対して大きな不満を持っているのであろう。中国の工場などで頻発するストライキや暴動のニュースを見ていると、その事が実感できる。従って今回のデモや暴動は、それらの不満を持つ層のガス抜きに使われている可能性が多いと思われる。

もちろん領土問題というのは国家にとってセンシティブな問題であって、中国政府が尖閣諸島の問題をかなり重大視している事は事実であろう。特に尖閣諸島を日本政府が買い上げ、国有化するという処理は中国政府を極めて刺激した事は確かであろう。これまで中国政府は日本側と同様に尖閣諸島を中国の固有領土であると主張して来た。

それを日本政府が買い上げ国有化するという事は、日本の領土である事を公然と世界に対して宣言する最も有効的な方法であろう。それに対して何もしないでおくことは、その宣言を認めた事になるわけである。もちろん中国政府として黙視しておくわけにはいかないだろう。それに対して有効な反対行動としては、単に日本政府に対して厳重に講義するだけではすまない事は明らかであろう。

といって軍事行動に出るわけにもいかないだろう。中国政府としては、最も有効な反対運動として、中国の一般民衆が日本政府の尖閣諸島国有化に対して猛烈に反対し抗議している様子を世界に示す必要があったのであろう。そしてそのためには単なる整然としたデモでは不十分であり、一部は暴徒化して日本の商店やデパートを襲うぐらいの事は必要であると判断したのであろう。

そしてそれは確かに有効であったのかもしれない。日本のマスコミはもとよりここシンガポールでもテレビでは中国の民衆による抗議行動が連日のように取りあげられたのであるから。しかしその事は逆の意味で、日本政府が尖閣諸島を買い上げ国有化するという政策が、中国政府をそこまで刺激したという意味で大変有効な政策であった事を示している。

現在の中国における民衆の抗議行動などが一段落した段階で、日本と中国のそれぞれの得点を計算すると、日本は尖閣諸島国有化というスマートな方法で尖閣諸島が日本の領土である事を世界に主張したという意味でプラスの評価を得るであろう。かたや中国は、民衆のデモが一部暴徒化して破壊行為に及んだ事を黙認したという意味で、まだ何が起こるかわからない国というマイナスの印象を世界に与えたのではあるまいか。

多分今回の件で最も影響を受けたのは、中国からの観光客が激減した事により打撃を受けている日本の観光業界ではあるまいか。時間と共に回復する事を期待するしかないが、ある意味で国の政策によって被害を受けたのであるから、部分的にでも国が補償するという事を行ってもいいのではないだろうか。