シンガポール通信ー尖閣諸島問題を考える

このところ尖閣諸島問題で日中間の関係が緊迫している。中国では大規模デモが多くの都市で起こると共に、日系のコンビニ・百貨店などが暴徒と化したデモ隊の標的となって破壊されるなどの事件が起こっている。私は来月中旬に中国で行われる国際会議に招待されて参加の予定であるが、先方の先生から「本当に参加できるのか?中止する場合は連絡してほしい」と気遣ってくれるメールが送られてくる。しかし私は今回の件は楽観視しており、参加するつもりであり中止の予定はない。

一般にマスコミなどで伝えられているところでは、今回のデモやそれに伴う暴動は、尖閣諸島を自国の領土であると主張する中国が、日本が尖閣諸島を国有化する事に対して強く反発したことに端を発した事になっている。そして中国政府の方針を支持する中国の一般市民がデモという行動に出、その一部が暴徒化したということになっている。しかし、私がニュースなどで見たり聞いたりしている限り、今回の件は外交問題以上に中国の国内の問題なのではないかと感じられてしかたがない。

ご存知のように現在中国は 胡錦濤国家主席から現在副主席である習近平氏への権力の委譲期にある。中国は現在でもトップの持つ権力は絶大である。そのことは、誰がトップになるかに関して陰湿な権力争いが行われる可能性の大きい事を示している。今回の権力委譲に関しては、トップレベルでは平和裏に権力委譲が行われるようであるが、ここに至までの経緯はいろいろあったであろうし、ピラミッド構造をしている組織の下部の方では、トップにおいて平穏に次期政権に権力が移行する事に対して大きな不満を持っている人たちがいる事が当然予想される。

中国は巨大な国であり、北京以外にも多くの大都市や中小都市が存在している。それらの都市の中には、トップがこの権力移行に対して大きな不満を持っている都市も多いであろう事は、容易に推定される。それらの人たちが、民衆のデモや暴動によって権力移行に対する不満を表明し、中央集権体制に対して揺さぶりをかけようとしたとしても不思議ではあるまい。どうも今回の中国のデモとその一部の暴徒化は、そのような権力内部の不満分子が民衆の力を借りて自分たちの不満を表明したもののように私には見えるのである。

一方で、今回の権力移行が自分たちに有利に働く人たちにとっても、権力移行の不安定な時期に国民の目を外部に向けておく事ができれば、無理なく権力の移行が実行されるというメリットがある。つまり、権力内部の人たちにとっては、主流派・反主流派を問わず、彼等の権力争いや権力移行という内部の問題を、尖閣諸島の領土争いという外交問題にすり替え、国民を巻き込んで人々の目をそちらに向けようとする意図が働いているのではあるまいか。

もちろん確たる確証があるわけではないがそう感じられて仕方がない。というのもデモやその暴徒化の様子に不自然な部分が多く見られるからである。まず第一に中国という国にとって尖閣諸島というちっぽけな島々が意味を持つのだろうか。もちろんその近海の地下資源や漁場としての資源があるだろうが、中国はその広大な国土に十分な地下資源を持っている。尖閣諸島付近の地下資源が中国に対して持つ意味は、日本に対して持つ意味に比較すると極めて小さなものではないだろうか。デモの参加者がインタビューに答える内容も、「尖閣諸島は中国固有の領土であってそれを横取りしようとする日本は許せない」という判を押したような内容であって、一つ覚えという印象をまぬかれない。

また、デモがいかにもうまく制御されていないだろうか。柳条湖事件の記念日である18日までは政府がデモを容認する姿勢をとっていた。後で報道されたように、一部の地方都市では地方政府が積極的に人々にデモに参加するように要請したということも起こっている。そして18日を過ぎると、中国政府が強硬にデモを抑えにかかり、数日でデモは沈静化されている。

デモ隊の一部が暴徒化して日本のコンビニや百貨店を破壊・略奪した件に関しても、日本のマスコミでは中国の日本に対する反感の大きさに焦点を当てて刺激的に報道しているが、うまく制御された暴動のように見えて仕方がない。これだけの破壊行為であるならば普通は人的被害がある程度出る事が予想される。日本人の住んでいる家が襲われるという事すら起こっても不思議ではない。中国在住の日本人や中国を旅行中の日本人旅行者がこのような暴動に巻き込まれ、負傷者や死者すら出る事も予想される。ところがデモ隊の近辺を通りかかった数名の日本人がけがをする程度ですんでいるのである。

これらのことは、今回のデモや暴動が政府が(主流派・反主流派を問わず)仕掛けたものである事を示していないだろうか。具体的に言うと、デモ隊の中に政府側の人間が入っており、デモ隊を煽動して、日本人に直接の人的被害が出ないような範囲で暴動を起こさせ商店などを破壊させたと考えられないだろうか。マスコミで報道される生々しい破壊の跡は確かに私達に強いショックを与えるが、実際には物的被害は保険金で補償されるのである。
(続く)