シンガポール通信ーコミュニケーションメディアの利点と欠点

前回は、メール(電子メール)、ブログ、TwitterFacebookなどの新しいコミュニケーションメディアを使う時間について質問した回答に関して報告した。今回は、これらのメディアを使うことによって、どのような利点やさらには欠点を人々が感じているかに関する調査の結果を報告しよう。

メールを含めてインターネットの利用が一般に普及したのは、1990年代前半の最初のウェブブラウザであるモザイクの出現によってだろう。それ以前からメールは研究者の間で広く使われていたとはいえ、一般の人々の間に普及するというまでには至っていなかった。そういう意味ではウェブブラウザによるネット閲覧、メールによるメッセージ交換が普及し始めたのは1990年代半ば以降なのである。ということはまだインターネット利用が一般に普及し始めてから15年あまりしか経っていないという事になる。

今回調査の対象にした人達は、20代および30代である。ということは、彼らはインターネットの普及とともに育った世代という事になる。さらには、東南アジアの国々では他の先進国に比較してネット普及が遅かっただろうから、彼らは純粋のディジタルネイティブというわけではない。ネットのある生活とない生活の両方を経験している世代であるといえる。

そのような世代の人々であれば、ある意味でネットの使用に関しても冷静な見方、別の言い方をするとネット利用の正の面と負の面に関して客観的な意見をくれるのではないだろうか。そのような期待の基に調査を行った。

まず、ネット上のコミュニケーションメディア利用に関する正の面と負の面に関して訪ねてみた。質問は彼らの率直な意見を聞くため、回答選択制にせず自由回答制とし、まとめの段階でいくつかの主立った意見にまとめるという事を行った。まずコミュニケーションメディア利用の利点に関する結果を以下に示す。


1.コミュニケーションメディア利用の利点(複数回答可)
コミュニケ—ションが容易になった 20人
コミュニケーションが多様化した   6人
家族•友人との親密感の維持に役立つ 5人
生活に不可欠なツールになった 4人
ニュース•情報の収集が容易になった 3人
多くの人と感情•体験共有が可能になった 2人
計      40人


コミュニケーションが容易になったというのは予想できる答えであるし、やはりそのような回答が最も多かった。コミュニケーションが多様化したというのは、ネットの無い時代を知っているユーザだからこその回答かもしれない。具体的には、声によるコミュニケーションからテキストによるコミュニケーション、しかもリアルタイムもしくはほぼリアルタイムのテキストによるコミュニケーションが普及したというのは、ネットの力の大きな点であろう。家族•友人との親密感の維持に役立つというのは、アジアならではの回答かもしれない。東南アジアの諸国では、まだまだ家族間のつながりが極めて強い。母国を離れてシンガポールで暮らしている若者にとっては、メール•チャットやFacebookによって毎日のように家族とのコミュニケーションを行い、家族の絆を保持することが必要不可欠なのであろう。
多くの人と感情•体験共有が可能になったというのも新しいコミュニケーションツールの利点であろう。これはFacebookのユーザの答えとも重複するので、別にFacebookに関する調査の項で述べたい。

次にコミュニケーションメディア利用の欠点に関する調査結果を見てみよう。


2.コミュニケーションメディア利用の欠点(複数解答可)
多くの時間を取られる 10人
対面コミュニケーションが少なくなった 8人
コミュニケーションの質が低下した 6人
意識的に使用時間を制限している 4人
中毒症状の人を見かける 3人
自分自身も中毒症状である 2人
計   33人


やはり何と言ってもこれらのコミュニケーションメディアを使っている時間が多いため、それにあまりにも時間を取られる事を指摘する声が多かった。事務職の場合はある意味でメールのやり取りをする事そのものが仕事になっている場合が多い。私自身もそうで、1日の半分以上の時間はPC上でのメールのやり取りに時間を取られている。そうすると必然的に、顔を合わせて行うコミュニケーションの時間が少なくなる。顔を合わせて行うコミュニケーションに比較すると、コミュニケーションメディアによるコミュニケーションには細かな感情•ニュアンスの伝達などが欠けており、そのことがコミュニケーションの質が低下したという感想に現れているのであろう。逆に言うと、顔を合わせたコミュニケーションの重要性が認識されているという事になる。ある意味で東南アジアの若者は大変健全な感覚を持っているといえるだろう。

コミュニケーションメディアの使用にあまりに時間を取られると、本来は仕事などの合間にメールのチェックなどを行うべき所が、メールのチェックがメインになってしまう。そしてその合間は、ウェブでニュースを見たりFacebookで友人達の近況を見たりという事で時間を過ごしてしまう事になり、クリエィテブな仕事に費やす時間が亡くなってしまうという事がおこる。いわゆる中毒症状というやつであるが、そのようなことにならないように意識的に使用時間を制限しているという声もあった。そしてそれにもかかわらず、中毒症状というのが存在するという事を指摘する声もあった。その1つは多くの人があまりにもコミュニケーションメディアの使用に時間を取られていることを指摘する声である。そして自分自身も中毒症状気味である事を意識している声もあった。
これらの欠点を意識しているという事は、今回の調査の対象となった若者達が、コミュニケーションメディアの使用に関して大変健全な意識を持っているという事を意味している。日本ではどうだろうか、また欧米の若者達はどのような意識を持っているだろうか。比較調査を行うと興味深い結果が期待できるのではないだろうか。

最後に、最近ユーザを急激に増やしているFacebookがなぜそのように人気があるのかに関する調査を行った。結果は以下の通りである。


3.なぜFacebookが広く使われているか(複数回答可)
古い友人との関係維持     11人
グローバルに人をつないでくれる    9人
コミュニケーションのプラットフォームを実現している 9人
自分をアピールする欲望を満足してくれる 9人
日常の感情•体験を共有化できる   7人
エンタテインメントの要素を持っている。 6人
皆が使っている、トレンド化している。 3人
計     54人
いろいろな意見があるが、やはり何と言っても古い友人とのコミュニケーションを維持するのに役立っているという意見が目立つ。具体的には、小学校時代の友人など現在はコミュニケーションが途絶えている知り合いとFacebookを通して再びつながりが出来、近況などを知り合ったり、時には連絡し合っているというものである。Facebookにおけるコミュニケーションは、メールのような1対1の密なコミュニケーションに比較すると薄いコミュニケーションとでも言ったらいいだろうか。これまでとは少し異なるコミュニケーションの形式であることは確かである。
他の意見は、この「古い友人との関係の維持」というこの意見をすこし抽象化した表現と言えなくもない。確かに私自身もFacebookにおけるコミュニケーションで何が新しいかと聞かれると、昔の知り合いの写真や近況などをFacebook上で見いだして、時には短いコメントを送ったりするという「緩い関係の維持」である。いいかえると「アウェアネスの維持」とでも言ったらいいだろうか。直接のコミュニケーションをするわけではないが、Facebookを使う事により、自分が属しているコミュニティの人々の様子を常に知ることができるというのは、確かにこれまでとは少し異なるコミュニケーションである。そしてそれが人々の琴線に触れているという事なのだろう。