シンガポール通信ーヴェーゲナー「大陸と海洋の起源」

久しぶりにゆっくりと週末を過ごせたので、これも久しぶりに読書に勤しんだ。週末に読破したのはヴェーゲナーの「大陸と海洋の起源」である。ヴェーゲナー(1880年—1930年)はドイツ人で、かの有名な「大陸移動説」の提唱者である。そしてこの「大陸と海洋の起源」は、彼が自分の大陸移動説の立証のために書いた本であり、1915年に第一版が出版された後何度も改訂され、彼の死の前年の1929年には第四版が出版された。

大陸移動説は言うまでもなく、それまでそれぞれの位置関係が不変であると考えられていた地球上の諸大陸が相互に移動するという説であり、彼によって最初にまとまった理論として提唱されたものである。彼の大陸移動説は、それまでの大陸の位置は不変であるといういわば当たり前の説に対して、ある意味で突拍子も無い説であり、なかなか学会には受け入れられなかった。1950年代になって古い岩石の磁気の研究が進む事により、徐々に大陸の位置関係が相対的に変わったという彼の説が受け入れるようになったらしい。

大陸が移動する典型的な例としてよくあげられるのは、アフリカ大陸の西側の海岸線と南アメリカの東側の海岸線の形がよく似ており、一方を他方に移動させるといわばジグソーパズルのように上手く合致するというものである。これは地理学にうとい一般の人々にも大変に説得力に富む例である。

私が多分小学校の高学年の頃だったかと思うが、地理の時間に先生からこのアフリカ大陸と南アメリカ大陸の海岸線の類似している事を聞かされ、妙に感心した覚えがある。今から思えば私の小学校高学年は1950年代後半であるから、大陸移動説の歴史からするとやっと学者の間で受け入れられるようになった頃である。その意味では私の地理の先生は学会の動きに敏感な先生だったのだろう。

しかしその先生も、大陸同士が相互に動いているという説明はしなかったように覚えている。地理学におけるある種のなぞなぞとして、私たち生徒に提示してくれたように記憶している。しかし私も含めて生徒達が妙に感心したのは、直感的にそれらの2つの大陸が昔はくっついていた可能性を直感的に感じ、地球の長い壮大な歴史で起こる事柄の可能性の大きさを思いやったからであろう。

この本は岩波文庫の上下2分冊からなっているが、なんといっても面白いのは前半の部分である。第1章は序論であるが、第2章では、これまでの説、特に大陸は移動しないという海洋不変説や、山脈は地球が冷えて収縮する時にその皮の部分である表皮にしわがよる事を意味しているという地球収縮説などが簡単にそして面白く要約してある。そしてそれたに対応する理論としての大陸移動説の概要が述べてある。

大陸移動説をまとめると次のようになる。現在地球上にはいくつかの大陸が存在しているが、それらはかっては(約3億年前)1つの大きな大陸を形成していた。(この大陸は彼によってパンゲアと名付けられたといわれているが、なぜかこの本の中ではこの名前はほとんど出て来ない。その単一の大きな大陸がその分裂し、その分裂した各大陸が相互に移動する事により現在の大陸になったというものである。

(続く)