シンガポール通信ー草間彌生個展

先週1週間帰国していたので、その間を利用して大阪の国立国際美術館で行われている草間彌生の個展を鑑賞して来た。

草間彌生は1929年生まれであるから、すでに80歳を越えている。水玉模様を繰り返し描く作風で有名である。1957年から1973年までは米国に滞在し、当時はパフォーマンスなどを中心とした活動を行う前衛芸術家として知られた。

その後帰国して精神を病み、入院などを繰り返しながら小説の執筆活動や水玉模様を使ったアート制作活動を行った。水玉模様を使ったアート作品が注目を浴び始めたのは、1990年代になってからである。現在では、その水玉模様を使ったアート作品で世界的に知られている。その意味では、彼女が世界的に有名になったのは60歳以降になってからである。

さて会場となっている大阪の国立国際美術館に行ってみると、ともかくも大変な混雑である。入場券売り場で入場券を買うのに20分程度行列を作り、さらに展示会場入り口で20分程度行列を作って待たされる。大阪といえば現実主義的な考え方が主流の街であり、いいかえると、失礼だけれどもアートに興味を持ちそうな人々が多くいるとは思えない街である。

しかも行列を作っている人たちはごく普通の人たち、若者のカップルもいれば中年のおじさん・おばさん達もいる。これが京都だと、アート関係の人や定年後の大学の先生などが並んでおり、難しい議論などをしていたりするのであるが、大阪の場合ごく気軽にエンタテインメントでも楽しもうかという雰囲気なのである。

展示会場に入ってみて感じたのは、ともかくも彼女の作品の持つエネルギーである。単純な水玉模様の作品は、それはそれでシンプルさと明るさが一体となって、作品がある種のエネルギーを放出しているようである。

そして徐々にこの水玉模様が相互に関連し合って、1つの有機体を作り上げているような作品が出てくる。ここでは、水玉模様は単純にランダムに配置されているのではなく、相互に関係性を持って配置されており、水玉模様の配列それ自身が1つの有機体として生命を持っているように見える。そしてその有機体生命自身が生命エネルギーを発しているのである。

さらにその有機体が変化し様々な形を持つようになり、ゾウリムシやその繊毛などの微小空間を表現するようになり、さらには細胞・ミトコンドリアなどの極小の世界を表現するように進化して行く。こうなると、微小空間を宇宙と見立てる事により、宇宙全体を表現していると見なす事もできる。

そしてそこでも、水玉模様が持っていたエネルギーがそのまま保持されているのである。これは草間彌生自身が持っているエネルギーと言っていいであろう。つまり草間彌生が発するエネルギーを人々が受けとめ、人々自身のエネルギーとなり、そしてそれが人々に元気を与えるのではないだろうか。



入場券売り場の混雑の様子。



入場券を買った後再び入り口で行列し20分ほど待たされる。



これは展示の一部であるチューリップの部屋。部屋一面に赤の水玉模様がちりばめてあり、いかにも明るい雰囲気がすると同時にある種のエネルギーを感じる。



水玉模様がカボチャの上にちりばめられている作品。水玉模様はカボチャの表面の模様であるが、同時に模様自身が1つの有機体として生命を持っているように感じる。



水玉模様に加え他のデザインが加わり、ゾウリムシ、繊毛、細胞、ミトコンドリアなどの微小の世界が表現されている。草間彌生の宇宙感とでも言おうか。