シンガポール通信ーホットメディアとクールメディア:新しい分類法の提案

前回は、人との関わりを要求するメディアか(クールメディア)否か(ホットメディア)というマクルーハンのメディアの分類学が、現時点で考えるとインタラクティブなメディアか(クールメディア)否か(ホットメディア)という分類と、没入型のメディアか(ホットメディア)否か(クールメディア)という分類の、2つの分類法に分けて考えて方が適当であることを指摘した。

さてそれではそのような分類法によって、ホットメディア・クールメディアの分類を行ってみよう。

1.マクルーハンの分類
ホットメディア:ラジオ、映画、本(小説等)
クールメディア:テレビ、電話、会話、本(漫画等)

2.インタラクティブか否かという分類
ホットメディア(非インタラクティブメディア):テレビ、ラジオ、映画、本(小説、漫画)
クールメディア(インタラクティブメディア):電話、会話

この分類でマクルーハンの分類と最も大きく異なるのは、テレビの位置付けである。非インタラクティブメディア、言い換えると放送型もしくは一方向型のメディアは、その性格のためにかなり密度の濃い情報を含めることにより、人々の関心をつなぎ止める必要がある。ところがテレビは放送型メディアであるにも関わらず、その内容が映画などに比較して薄いという特徴がある。

マクルーハンの時代はまだテレビは新しいメディアであり、その位置付けは明確ではなかった。彼自身にとってもテレビというメディアは何かしらこれまでのメディアにはなかった特徴を持ったメディアとして映ったのであろう。そのため、テレビをラジオなどと比較することによりその特徴を明確化しようとして、ラジオをホットメディアに、テレビをクールメディアに分類すると言うことを行ったのであろう。

現在では、テレビとラジオは、一方は映像他方は音という使っているモダリティは異なるにせよ、性格的には近いメディアであると人々は理解している。すなわちいずれも片手間に見たり聞いたりするメディアであり、いわば気軽な娯楽のメディアなのである。そのため、テレビやラジオの番組を比較的頻繁に変えることはごく当たり前のことになっている。

しかしながらマクルーハンの時代はまだテレビは新しいメディアであり、気軽な娯楽のためのメディアであるとはいえ、チャンネルを変えるなどということはあまりせず、特定の番組を家族などで一定の時間継続して見るという行為が普通だったのである。そのことが、マクルーハンをして、テレビというメディアをラジオとは異なるメディアとして位置付けることになったのであろう。

3.没入型か否かという分類
ホットメディア(没入型メディア):映画、本(小説等)、電話(雑談)、会話(雑談)
クールメディア(非没入型メディア):テレビ、ラジオ、本(漫画)、電話(ビジネス)、会話(ビジネス)

ここでもマクルーハンの分類との相違で特徴的なのは、テレビ・ラジオの位置付けである。上にも述べたように現在私たちは、テレビもラジオも気軽な娯楽のためのメディアであると位置付けている。そのためテレビとラジオは同じジャンルに属するメディアであると理解している。すなわちいずれも気軽な娯楽のためのメディアであってそれほど入れこんで見たり聞いたりするものではないと考えている。言い換えるとそれが非没入型メディアとして私が分類した理由である。

しかしまた繰り返しになるけれども、マクルーハンの時代にはまだテレビは新しいメディアであってその位置付けが明確ではなかった。そのため、彼自身もテレビを他のメディア特にラジオと比較することによりその位置付けを明確にしようとしたのではないだろうか。

そのことがマクルーハンをしてテレビとラジオを異なるジャンルに属するメディアであるという結論に導かせたのではないだろうか。マクルーハンのメディア論全体が現在では古くさい考察であるかどうかはまた別に論じたいけれども、少なくとも現時点でその内容の一部を見直さなければならないないことは確かである。