シンガポール通信ーCUTEセンターの中間評価

2月中旬以来、すっかりブログの更新をおこたっていた。CUTEセンターという慶応義塾大学と共同研究している研究センターの中間評価があったためである。

CUTEセンターは5年間のプロジェクトで、予算はS$20M(日本円だと12億円程度)の規模のプロジェクトである。現在のツイッタ—やフェースブック、さらにはスマートフォンiPadなどのコミュニケーションメディアの次世代のメディアを作り出そうというのがその目的である。

次世代メディアの研究というのは、ある意味で古くからのテーマである。私がATR時代に行ったプロジェクトも将来の通信メディアを創出する事を狙っていたと言っていい。研究分野としては現在も多くの研究者がこのテーマにそって研究を行っている。そして興味深い研究成果も生まれている。

例えば服にコンピュータの機能を埋め込んで常にコンピュータが身近にあるようにしようというウェアラブルコンピュータや、遠隔地の友人・家族などがどのように過ごしているかという様子を気配として伝えてくれるアウェアネスの研究などがある。いずれも研究としては大変面白い。ところが実際にはこれらの研究からは実際の商品は生まれていない。

一方でスマートフォンが急速に普及しているが、コンピュータを常に身近に持つという意味では、スマートフォンウェアラブルコンピュータを現実の商品として実現したものと考える事ができる。また、フェースブックやツイッタ—は、自分の近況を気軽にメッセージとして送ったり写真をアップロードしたりすることにより、直接コミュニケーションをしなくても親しい人や知っている人が現在どのような様子なのかを知る事ができる。その意味でアウェアネスを実現したものという事ができる。

このように研究者の夢が現実に実現された時それが本来の夢とは異なる形になっているというのは科学技術の歴史においてもよくあることである。典型的な例が鳥のように飛びたいという欲求が飛行機という異なった形で実現されたというものである。

しかしながらこのことは、研究というものの重要性に疑問符をつけるものというわけではない。むしろ、研究者が夢を追求する事が、その周辺をも巻き込んで形は異なるにせよ新しい製品に結びつくという考え方もできる。その意味ではiPhoneに代表されるスマートフォンiPadに代表されるタブレットコンピュータが全盛の現在ではあるが、次世代のメディアを研究する事は重要なことだといえる。

しなしながら同時に、このような研究に政府の資金が投じられ、ある程度自由に研究ができるということが研究者をある意味で甘やかすという事につながりやすいのも事実である。若い研究者に自由に研究をやらせながらも自己中心的な研究に落ち入るのをとどめるという事が必要で、この辺りがなかなか研究マネジメントの難しいところである。幸い中間評価は評価委員から良い評価が頂けたが、今後も研究マネジメントのあり方は継続して考えて行く必要があると思っている。


内部の評価委員会が終わった後で、一般市民向けのパネルディスカッションや講演会を行った。パネルは旧シンガポール国会の議会で行われた。



議会の内部はいわゆる英国式の与党と野党が向かい合った座席配置になっている。これは海外から呼んだ評価委員の先生方が与党側の座席に座っているところ。最も左側の先生が座っているのがシンガポール建国の父とされるリー・カン・ユーが座っていた座席。



一緒に行った一般向けの技術展示会の様子。



すべてのイベントが終わった後での打ち上げの様子。どうもいつも打ち上げは私の好みで和食のレストランにしてしまうが、まあ皆さん満足されているようである。