シンガポール通信ー 武田隆「ソーシャルメディア進化論」2

前回紹介したのはこの本の第3章までである。そこでは、ソーシアルメディアもしくはソーシアルネットワーク(SN)を縦軸(価値観をベースとしたネットワークか、現実生活での人間関係を反映したネットワークか)と横軸(関係構築を目的としたものか、情報交換を目的としたものか)からなる2次元平面の4つの象限に分類する分類方法が述べてある。そしてさらに、分類されたそれぞれのグループに属するSNの特徴が述べてある。

それぞれの特徴は確かに正しいのではあるが、それはいづれ現状追認型の説明であると読めてしまう。そのため、第3章までの記述が、なぜSNが特にフェースブックツイッターがここまで爆発的にユーザを増やしているかという、私達が持つ疑問の説明にはなっていないと思わせてしまうのである。

第3章の終わりに著者は、4つに分類された各項目に属するSNの問題点をあげていく。そしてそれがいずれも同じような価値観を持った人たち、もしくは現実生活における友人関係である人たちの間のネットワークであり、そのためあまりにも「精神的なつながり」が重要視されている事を指摘している。

そのためそれが、現実生活において人々が重要視している「ものとのつながり」卑近な言い方をすると「お金儲け」との関係が希薄になっていることを指摘している。そして「精神的なつながり」と「ものとのつながり」を同時に実現するものとして、企業コミュニティいいかえると企業が構築するSNが適していることを述べている。

そして第4章以降は、企業コミュニティとは何かどのように運営されているかなどが、著者が構築に関わって来た企業コミュニティを実例としてあげながら述べられていく。企業コミュニティとは、企業が製品を購入するユーザの間のSNを構築して、ユーザ間の意見交換や企業に対する意見を述べ合う場として運営し、最終的には自社の製品の売り上げにつなげようとするものである。

従って本来それは、企業のお仕着せ型のSNなのである。しかしながら、たとえば育児用品のような生活必需品であれば、子供を育てているお母さん達が育児に関する情報交換をしたり、また育児用品の改良などの意見を企業に対して述べあう事が期待できる。したがって企業コミュニティは、ユーザと企業のいずれにとっても有効な関係構築の場になるわけであり、現在のSNが抱えている問題点の解決に役立つというのが、著者の主張である。

一般の読者は、この辺りの著者の論理展開を読んでいると、少し違和感を感じるのではないだろうか。というのはこの企業コミュニティというのは、著者が2000年頃から自らの考え方・信念にもとづきビジネス化して、いろいろな企業に売り込んで来たものなのである。ということは、著者はフェースブックやツイッタ—が出る以前からソーシアルネットワーク(SN)の可能性を信じ、しかもそれを企業活動と結びつけようとしてきたということになる。

その意味では著者としてみれば、フェースブックなどのSNで起こっている現象は既に自分たちがその前に始めていたことなのだと主張したいのだろう。しかもフェースブックを企業が宣伝活動に使おうとしている現状を見ると、それは自分たちがすでにやって来ている事であり、自分たちが先駆者であると主張したいのであろう。

その気持ちはよくわかる。しかし実際に起こっている事はある意味で著者のやって来た事と逆の進み方をしている。著者はSNは企業の広報活動などの経済的活動と結びついて始めて価値を持つと考えて来たのではないだろうか。それに対し、フェースブックなどのSNで生じている現象は、経済活動とは全く関係ないところで人間同士のつながりの構築や維持のためにSNが使われ爆発的に普及しているという事である。

そして、人間関係の構築・維持を主な目的としてSNが使われているのを見て、企業がそれを自社の広報活動に利用できないだろうかと考えているというのが現在生じている現象なのである。

たしかに著者がビジネスモデルを作り上げた企業コミュニティトいう名のSNがある程度ビジネスとして成功していることは認めたい。しかしながら問題はやはり、フェースブックやツイッタ—などの本来はお金儲けと関係ない人間関係の構築・維持のためのSNがなぜここまで爆発的に普及しているかである。そしてそれはまさにそれらのSNの特徴のため、つまりそれらがお金儲けとは関係ない活動のために作られているという特徴のためなのではないだろうか。

もし著者が主張したいのが「フェースブックやツイッタ—などのSNの進化形はそれが経済活動と結びついた企業コミュニティである」ということならば、それには疑問を呈さざるを得ない。それはSNの1つの応用であろうが、SNが爆発的に普及しているのはそれが経済活動とは結びついていない事にあるからだと、私には思われるからである。