シンガポール通信ー武田隆「ソーシャルメディア進化論」

ツイッタ—やフェースブックなどのソーシアルメディアもしくはソーシアルネットワーク(SN、以下まとめてSNと表記する事にする)は、今後どのように発展して行くのだろうか。これは現在多くの人が持つ疑問だろう。

全世界で8億人以上のユーザを持つといわれるフェースブックは、実質的なサービス開始は2006年、日本語版は2008年に公開というであり、ある意味でサービスが本格的に始まったのは私がシンガポールに来てからということになる。

ツイッタ—のフォローの依頼が結構来た時期があるが、私自身がツイッタ—は最近は全く使っていない事もあって、フォローの依頼は最近はあまり来なくなった。一方、フェースブックの方は、あまり利用していないけれども、友達になりたいという依頼は毎日結構受け取る。

友達の依頼が来た時だけ少し眺めてみる事にしているが、日常での付き合いはない昔の知り合いなどが、近況を報告したりメッセージを交換したりしているのを見ると、懐かしい気持ちになる。

とはいいながら、特にこちらがメッセージを送る必要もないので、ああ彼も元気にやっているなというような感じである。よく言われるように、「緩やかな関係の継続」というのがこれかと納得されられる事も多い。

というようなこともあり、特にフェースブックのようなSNがなぜ短期間に急激にユーザを増やしたのか、そして今後どうなるのかは誰でも知りたいところであろう。私も帰国した際に書店でこの本を見つけて、思わず購入してしまった。

著者は、企業のウェブサイト構築のコンサルの仕事を経て、企業を対象としてSNをマーケティングに活用する手法を開発して、企業のマーケティングのためのSNを開発・導入する事を仕事としている。2000年にそのための会社を設立したとあるから、ある意味でフェースブック出現以前からSNの力を知り、その活用をビジネスに生かして来た人である。

多分、ごく一般の読者を対象としているのであろう。最初はインターネットの歴史から記述が始まり、アップルやマイクロソフトの企業の話も交えたり、ウェブブラウザの誕生の話をはさんだりしながら、インターネットの利用がどのように人々の間で広まって来たかが懇切丁寧に記述してある。このあたりの歴史は知っている人も多いだろうが、時には歴史をさかのぼって、インターネットの発展を概観してみるのも良いものではないだろうか。

次に筆者は話題をSNに絞り込み、SNとは何かを述べて行く。SNを分類するにあたって、横軸を一方は情報交換、他方は関係構築という軸にし、これに対して縦軸では一方に現実生活における交友関係のネット上での再現という極があり、他方では趣味などの価値観で結びつくという極があるという全体として2次元の平面を作る。そしてその平面上でSNを分類しようと試みている。

このような分類方法がはたして正しいか否かはもう少し検討する必要がある。しかしながら、2チャンネルなどのような掲示板やさらにはブログなども含めた広い意味でのSNが分類できているのは、ある意味で著者の成果であろう。

これ以降は、この分類にそっていろいろなSNの特徴が説明されていく。その際に実名性と匿名性などの、ネットの世界でよく議論される話題も盛り込んであり、それなりに読み応えがある事は確かである。

ただ難を言うと、いずれの説明もある意味でその通りであるけれども、意外性がなく、「まあその通りだけれどもすでに知っていることだ」と読者に思われるような内容になっている。フェースブックは現実空間の交友関係をネット上で再現したものであり、使われ方としては情報交換に使われたり、友人関係の構築に使われたりすると説明されても、確かにその通りなのだけれども、ではなぜフェースブックがこれほどの短時間に8億人ものユーザを獲得したかという現象のうまい説明にはなっていないと読者に思わせてしまうのではないだろうか。

それこそがこのようなタイトルの本を読む読者が期待している事であり、少々著者の恣意が入っても良いから聞きたい事なのではあるまいか。

(続く)