シンガポール通信ースノーボール・アース2

「スノーボール・アース」、つまり氷に覆われた地球という考え方が私たちの常識に反するため、なかなか受け入れられないという事を前回書いた。

それは学者の間でも同様であって、このアイディアは最初の頃は学会では散々に酷評されたり無視されたらしい。最初に発表したのはカリフォルニア工科大学のジョー・カーシュヴィンク教授であるが、この段階ではアイディア的なものであり、それほど大議論とはならなかった。

しかしながら、それを学説として発展させ理論付けたものを、1998年にハーバード大学のポール・ホフマン教授が正式の論文として科学雑誌サイエンスに投稿したため、いわば大騒ぎになった訳である。

このポール・ホフマン教授が本書のいわば主人公である。彼は南アフリカナミビアでその地にある岩石の地質調査を続けているうちに、氷河の中に閉じ込められた岩石や砂などの堆積物が氷河が海に流れ込み解ける段階で海底に堆積した層を見いだした。

しかもその後世界中でそのような層が見いだされる事から、世界中に氷河が存在したとのアイディアを持ち、それを裏付ける理論を考えだして行く過程がノンフィクションとして描いてある。

当然ではあるが、最初の段階ではその学説は未完成であり、種々の欠点を持っている。したがってその欠点を突かれやすい。しかも先に述べたように、その学説は人々のそして研究者の常識にとっても受け入れがたい考え方なのである。

そのような批判・非難を、ポール・ホフマン教授が彼自身の強烈な個性と強烈な研究者精神によって一つ一つ反論してつぶして行く経緯を、彼の学説の支持者やそして批判者と彼自身の関係も交えながら小説風に描いており、大変楽しめる読み物である。

とはいいながら、先にも述べたように私たちの常識に反する、全世界が氷に覆われるという状態がなぜ生じたのであろうか。そしてまたそこからどのようにして脱出できたのであろうか。これは厳密には複雑な過程であるが、簡単に説明すると以下のようにプレートテクトニクス大陸移動説)と密接に関係しているらしいのである。

1.温室効果の原因となり地球の初期には大量にあった大気中の二酸化炭素が、徐々に石灰岩などの形で地殻に取り込まれ、二酸化炭素が減り地球が冷えやすい状態にあった。

2.かつ大陸移動によりすべての大陸が赤道付近に集まっていた時期があった。(地面は海洋に比較して太陽熱を反射しやすいので、赤道付近に大陸が集まっていると、地球が冷えやすい。)

3.そのような状態の時に、極地の氷が何らかのきっかけで広がり始めると、氷が太陽熱を反射するため、ますます冷えやすくなるという状態が生じ、2と相まって加速度的に凍結が広まり、ついには地球全体が凍結状態になる。

4.これにより生命体の大部分は死滅するが、深い海中には一部の単細胞生命体が存続する。

5.凍結状態でも火山は存在するため、火山から二酸化炭素がガスとして供給され徐々に大気中に蓄積し、その温室効果の結果ある段階から急速に凍結が解除される。

6.氷が溶け始めると共に、海中の豊富や栄養分を取り込みながら生き延びた単細胞生命体が、複雑な生命体へと急速に成長する。

この学説の面白いところは、全地球凍結が終わったとされる約7億年前から生物の急速な進化が起こり、いわゆるカンブリア紀のいわゆる「カンブリア爆発」と呼ばれる三葉虫などの様々な多細胞生物の出現じた出来事の原因もある意味で説明できるという事である。

しかしそれにましてもっと興味深いのは、私たちの地球の状態が安定しているのではなくて実はむしろ不安定な状態にあり、長期的に見ると全地球凍結や地磁気逆転などの私たちの常識に反する現象がたびたび起こっているという事である。



スノーボール・アースのイメージ