シンガポール通信ースティーブ・ジョブスの死

現在カナダ、バンクーバーに滞在中である。エンタテインメント技術に関する国際会議ICEC(International Conference on Entertainment Computing)に出席するためである。

このブログでも何回か書いたけれども、この国際会議は10年ほど前にこの分野で研究活動をしている世界の研究者達と一緒に作ったものである。毎年、アジア、北アメリカ、ヨーロッパで順に会議を開催しており、今年は北アメリカで開催する順序になっている。

ATR時代に私と一緒の研究所に所属し、現在ブリティシュコロンビア大学の教授をしているSidney Felsが委員長となって開催している。私を含めこの国際会議の創設者は、ステアリング・コミティのメンバーとして、毎年の会議の進め方にアドバイスなどを行っている。

今日は会議の初日であり、会議と並行してステアリング・コミティの会合が開かれ、会議全体の進捗状況をチェックしたり、来年度の会議の開催方法などに関して議論を行っていた。ちょうど議論が白熱してきた時に、ネットを見ているとスティーブ・ジョブスが死去したとのニュースが飛び込んで来た。

このニュースを皆に知らせると、白熱していた議論が止まりシーンとした静寂が訪れた。やはり誰にとってもスティーブ・ジョブスの死去は思いがけないニュースだったのだろう。

彼が数年前からガンをわずらっていたこと、さらに最近体調がいっそう悪くなったためアップルのCEOの座を辞任したことなどは誰も知っている。しかし彼はついこの間まで新製品の発表会に登場していたし、一時は倒産の危機にあったアップルを立て直し、株価時価総額世界一の会社にした企業人として現在もっとも注目を集めている人だけに、やはり彼の死は突然の出来事と受け止められたのだろう。「予期はしていたけれどもこんなに早いとは思わなかった」というのが参加者皆のいつわらざる感想だった。

とはいいながら、ある程度予想されたことではあるので、ひとしきり彼の話題で議論が中断した後、再び参加者は会議のオーガナイズの議論に戻っていった。

私自身もこのブログでも書いたが、アップルに返り咲く前のいわばまだ失意状態にある彼の講演を聞いたことがあるし、アップルに戻ってからの彼の矢継ぎばやの経営立て直しとその成功を驚きを持って見守っていただけに、そしてまた私自身もマックファンであるだけに、このニュースはショックであった。

それにしても最後までアップルの経営の最前線に立ち、かつ世界中のIT関係者の注目の的、ある意味で世界でもっとも注目されている人間としてのままの死とは、なんという「かっこいい」死に方だろう。

私はかってATRの研究所の所長をしていた時に、研究所が終了する日の朝皆が出勤してみると私が机に向かったままで過労で死んでいるのを見いだすという死に方がしたいものだと周囲の皆に言ってナルシストだと冷やかされたことがあるが、スティーブ・ジョブスの死はそれとは比較にならないほどかっこいいすてきな死に方ではないだろうか。


ステアリングコミッティのミーティング(正式にはIFIP TC14 meeting)。



ミーティングの後は恒例の飲み会。



早速アップルのホームページにはスティーブ・ジョブスの遺影が載せられている。