シンガポール通信ー横浜トリエンナーレ

現在京大で行われるワークショップ参加のため帰国しているが、合間をぬって横浜で開催されている現代アートの展示会である横浜トリエンナーレに行ってきた。絵画、彫刻、ビデオ、インスタレーションなど様々な作品が展示されている。三連休中と言うこともあり、かなりの人出である。シンガポールのアート展示会ではこれほどの人出に出会うことはない。日本とシンガポールの文化レベルの差のようなものを感じさせる。

展示作品中、なんと言っても話題になっているのは「クロック」と呼ばれるビデオ作品である。これは数多くの映画から時計の写っている(つまり時間のわかる)短いシーンをとりだし、これを時間順序に沿ってつなぎ合わせることにより24時間のビデオ作品にしたものである。

話を聞くだけで良いアイディアだと思わせるが、実物を見てみようと言うことで、このビデオ作品は2時間近くをかけて鑑賞した。予想に違わずそして評判に違わず大変面白い。本来は全く関係のない複数の映画のシーンがつながると、そこに何かしらストーリーが存在しているように感じてしまい、見ていて飽きない。

これは、複数の連続した出来事の間に因果性を見いだそうとする人間の基本的な心理作用によるものであるが、さらにそこに時計によって表象される時間の連続性が2つのシーン間のつながりを強めてくれるという役割をしている。

さらに時計は、映画の中で犯行予告時間とかあらかじめ定められたタイムリミット等を示すことにより緊張度を高める小物として使われることが多い。そのために、観客は複数の映画のシーンの連なりにストーリー性を見いだし、かつ時計の使用による緊張の高まりを感じることになる。なかなかうまいところに目をつけた作品である。

少し残念だったのは、私の見た中にちょうど正午のシーンが含まれていたのであるが、正午と言えばあの有名なゲイリー・クーパー主演の西部劇「ハイ・ヌーン」のシーンが多用されていると期待していたのに、ほんの一瞬だけしか使われていなかったことである。もっともこの映画をおぼえている人も少なくなっているのかもしれない。

もう1つ誰もが疑問に思うことだと思うが、時計の含まれている映画の短いシーンをつなぐだけで本当に24時間のビデオを作れるのだろうかと言うことである。どうしても時計が写っていないシーンを使わざるを得ない場面もあるのではないだろうか。

という訳で注意してみていたが、ローレンス・オリビエ主演のシェークスビア「ハムレット」のシーンが挿入されているのに気がついた。当然ではあるが、時計はシーン中に現れていない。さらにはハムレットのなかで時間が明確にわかる場面があるとも思えない。(冒頭の真夜中にハムレットの父親の亡霊が現れる場面は例外であるが。)というわけで、作者は多分この他にも随所で遊び心を発揮しているものと思われる。


桜木町駅前。見慣れた風景であるが、見方を変えるとこれもアート的。



レコードの乗ったターンテーブルを「ろくろ」に見立てて陶芸品を制作しているビデオ。ビデオ作品としては大変面白い。ところが同時に展示してある実物(動かない)は何の面白さもない。この辺りがアートの面白いところであり難しいところ。



金属質の正方形に何やら目のようなものがついており、無機質な物質に生命的なものを感じさせる作品。



シュールレアリスムの作品。すこしシュールレアリスムの伝統にのっとりすぎているのではなかろうか。



横浜美術館の正面に並んでいる彫刻群。それぞれがコミカルであると同時に少し不気味な感じの表情をしている。なんだかモアイ像との類似を感じさせる。



これは話題のビデオ作品「クロック」。