シンガポール通信ーIDMIの技術説明会

先週、私の研究所であるIDMIの日本企業に対する技術説明会を行った。

技術説明会というのは、研究所で開発した技術を企業向けに公開し、気に入った技術を買ってもらおうという催しである(「技術移転」という難しい言葉を使うが)。

日本では10年以上前から、大学の研究成果を論文発表の形だけで残すのではなく、企業に技術移転し、具体的なサービスや製品に結びつける事が大切である事が指摘され、それを積極的に行うための方策が検討され実行されて来た。

もちろん大学と企業の関係は技術移転だけではなく、企業が必要とする技術の研究開発を大学と一緒に行う共同研究という枠組みなどがある。しかし、風土の異なる大学と企業の研究者が共同研究を行うというのは、なかなか困難な面を含んでいる。

したがって日本では、大学で開発した技術を特許などはしっかりと取った上で、企業に技術移転するというのが大学と企業との最も普通の関係として定着している。

一方で、シンガポールはまだまだ新しい国であり、これまでは基礎研究重視という事で、あまり企業との関係は問題になっていなかった。大学の研究者は、研究成果の質の高さだけを追求すれば良く、役に立つという側面にあまり注意を払わなくても良かったのである。

ある意味でそのおかげで、NUSは数十年のうちに大学ワールドランキングで、東大や京大と肩を並べて20〜30位に入るまでになったわけである。しかしながら、同時にシンガポールは小さい国であり、いつまでも基礎研究だけに投資を続けるわけにはいかない。というわけで、最近応用研究重視がいわれるようになり、大学から企業への技術移転や大学と企業との共同研究が求められるようになって来た。

このことは、日本の状況に比較するとシンガポールは10年以上遅れているという事もできる。しかしながら、一旦動き出すと極めて動きの速い国であり、10年以内に大学と企業との関係においても、日本よりもっと親密で効果的な方式を見いだす可能性もある。

もう1つなぜ日本企業かという疑問も生じるだろう。ここでもまたシンガポールが小さい国であり、国内に日本的な意味での大企業がほとんどないということが大きな鍵となる。大学側からすると、中小企業より大企業への技術移転の方が効率がいい訳である。(言い換えると高く技術を買ってもらえる可能性が大きいということになる。)

ということで商工会議所シンガポール支所や科学技術振興機構シンガポール事務所の協力を得て、IDMIの成果の技術発表会を行った訳である。まあ始めての事でもあり、いろいろと不手際もあったが、IDMIがそしてNUSが日本の企業と接点を持つきっかけになったのではあるまいか。


商工会議所シンガポール支所を代表してNECの日下さんの挨拶



科学技術振興機構シンガポール事務所の山下所長の挨拶。(この後私が研究所紹介を行ったが、写真はない。)



各研究室が研究成果を説明。



さらにポスターで詳細を紹介。



最後にいくつかの成果についてはデモで紹介。