シンガポール通信ー社会の二重構造:ピラミッド構造とネットワーク構造

表のピラミッド構造と別のネットワーク構造の良い例として2チャンネルがある。ここでは、マスコミなどで流される意見とはまったく異なった意見が飛びかっており、それに基づいて参加者の間のコンセンサスが形成されていく。

表の社会対裏社会という構図に合致しているかのように、そこ飛び交っている情報は表の社会のコンセンサスをひっくり返したり、皮肉ったり、斜めから見たような情報であることが多い。Twitterで流されている情報も、2チャンネルほどではないにせよ、同様の傾向があるといっていいのではないだろうか。そのような場であまりにもまともな意見をいってしまうと、他の参加者から反論されたり、時には無視されるということになる。

そして裏社会で作り上げられたコンセンサスが表の社会に影響を及ぼす事もある。時には選挙の場合などに特定の候補者の当落を左右しかねないため、表の世界もこのいわば裏の世界をいかに取り込むかが重要になりつつある。また、ブログに有名人が載せた意見に対して感情的な反発が激しい場合は、発言者が発言の修正・撤回を余儀なくさせられる場合もあるというのも表の社会がネットワーク社会に影響を受けている例だろう。

原発の問題に関していわゆる風評被害が問題になっている。いつの場合も風評というのは起こりうるものであるが、今回の原発の場合は従来以上に風評の影響が大きいようである。これは、初期の段階で東電や政府が問題の大きくなりすぎる事を心配して、情報の全面的な公開を行わなかったことも大きく影響しているのではないだろうか。このように表の社会での情報の統制というのが民主主義社会でも起こりうる事は、イラク戦争における米軍の情報統制などからすでに私たちもわかっていることである。

その意味では、ネットワーク構造の裏社会が存在する意味は大きいし、現在おこっていることを延長すると、今後は再び社会全体がネットワーク構造に移行していくのではないかとも考えられる。

別の例をあげると、2011年初頭から中東の国々で起こっている人々の民主化を求める動きがあるだろう。中東の国々の多くでは表向き民主主義の看板は掲げているものの、実態としては軍事政権であったり独裁政権であったりして、人々の自由はかなり制限されていた。それが、チュニジアにおける民衆のデモに端を発して、エジプト、リビアなどに広がり、例えばエジプトでは長年続いたムバラク政権を崩壊させた。

これらの民衆の民主化を求める運動に、ネットワークが大きな役割を果たしたと報道されている。具体的には、TwitterFacebookによる投稿などにより、人々の間の民主化を求める動きに火をつけたと報道されている。もちろん、これは決してネットワークだけが引き起こした現象ではない事には注意を払う必要がある。一部のマスコミでは、TwitterFacebookがこれらの民主化運動を引き起こしたかのように報道されているが、それはこれらのコミュニケーションメディアを買いかぶっているものである。

決してそのようなことはない。既に人々の間に民主化に対する熱望の気持ちが熟成されていたのであろう。それが何らかのきっかけで爆発したものと考える事ができる。そしてTwitterFacebookがそのような役割をしたと解釈するのが適当だろう。とはいいながら、少なくともこれらのネットワークメディアが、運動の爆発的な広がりに大きな役割を果たしたことは認める必要があるのではないだろうか。

そしてその意味では、中東の国々においても、表の大統領などをトップとするピラミッド型の独裁政権・軍事政権の裏で、ネットワーク型の情報網が広がっており、それがあるきっかけで表の組織を揺るがすという事が起こりうるのである。

これらの現象を見ていると、将来の社会のあり方はどうなるのだろうか、現在の社会と比較してどのような現象が起こるだろうかという疑問が生じてくる。極論を言うと、政府が要らなくなることも予想される。 私たちはピラミッド型の組織構造がこれまでの構造で、ネットワーク構造というのはインターネットの影響で生まれた全く新しい構造のように思っているが、決してそのような事はない。

ギリシャ時代の都市国家はネットワーク社会であり、国家全体に関わる決定をすべき場合には全員が集まって議論し決定をするという直接民主主義が行われていたのである。そして国家の規模が大きくなると直接民主主義を行うことは困難となり、それに伴い国家の仕組みがピラミッド型の組織へと変化していったというのが歴史の流れではないだろうか。