シンガポール通信ーガラパゴス現象

日本に帰国する度に、人々が持っている携帯電話やiPadなどの情報機器を注意して観察しているが、まだまだ日本ではiPhoneに代表されるスマートフォンの普及率は低いようである。

Webを見る限りでは、iPhoneやアンドロイド系のスマートフォンの宣伝が盛んであり、携帯電話の国内市場はすでにスマートフォンの時代に入ったかのような感じを受ける。しかし私自身の感覚からすると、まだまだ国内市場は従来型の携帯電話が主流を占めているようである。

Web上でスマートフォンの出荷台数やシェアを調べてみると、案の定2011年度当初の状況はまだまだスマートフォンのシェアは1割程度との事である。出荷台数はさすがにスマートフォンの増加が著しく、出荷台数全体の約1/4がスマートフォンになっているようであるが、それでも携帯電話の多数を占めるにはまだまだという状況ではないだろうか。

2011年度全体では全出荷台数の半数近くを占めると予想されているが、果たしてそうなるだろうか。私自身ははなはだ疑問であると思っている。

一方でシンガポールでのスマートフォンの普及は著しく、シェアは既に50%を大きく超えているのではないだろうか。これは正確な統計を知っている訳ではないけれども、私の周囲を見てもほとんどの同僚がスマートフォンを持っている事からも、感覚的には正しいと思われる。

とすると、日本でスマートフォンが他の国々に比較して普及率が低いのは、なにか理由があるのではないかと勘ぐりたくなる。

その一つは従来型の携帯電話の機能が充実しており、スマートフォンに変えるだけのメリットを見い出しにくいという事だろう。日本の携帯電話は従来から機能高級化を追求しており、新しい機能をこれでもかこれでもかと追加して来た。その多くは使われないままであろうが、それでも特に若い人たちはそれらの機能を部分的にでも使いこなして来たのではないだろうか。

そのため、スマートフォンの使いやすさはわかっていても、従来型携帯電話の高度化された機能の方を選択するというのが、現時点での携帯電話ユーザの考え方ではないだろうか。確かにi-mode用の歴史は長く、洗練されたi-mode用のアプリが多数存在する現状では、乗り換えるだけのメリットをまだスマートフォンに見いだす事ができないのかもしれない。

もう1つは、このブログでもなんどか書いて来たけれども、現時点でのスマートフォンの入力手段の貧弱なことに原因していると思われる。携帯電話ユーザの大多数は、電話と同時にもしくはそれ以上にメールによるコミュニケーションを行っている。文章入力の場合にはスマートフォンのバーチャルキーボードは決して使いやすいものではない。

そしてそれ以上に、日本のユーザは従来型携帯電話のテンキーを使った入力、いわゆる親指入力に慣れてしまっているという現状があるのであろう。観察していても、まだまだ日本では親指入力で猛烈なスピードでメッセージを入力している若者の姿を見る事が多い。片手で携帯電話を保持したまま余っている親指で入力するという親指入力は、ある意味で洗練された入力法であり、特に入力速度ではまだまだバーチャルキーボードのかなうところではないだろう。

つまりまとめると、日本でスマートフォンへの移行が遅れている原因は大きく2つあるのと考えられる。1つは、従来型携帯電話が高機能化しすぎたために、現時点でのスマートフォンのアプリの魅力がそれほど感じられず、スマートフォンへの移行が遅れていることである。そして2つめは、親指入力による高速入力に慣れているために、現時点でのスマートフォンの入力の遅さのために、スマートフォンへの移行が遅れていることである。

これらはいずれもいわゆるガラパゴス現象と呼ばれているものだろう。しかしここで注意しなければならないのは、ガラパゴス現象の意味するところが、「閉じた環境にあるためにそれ以外の場所に比較して進化が遅れてしまった」と理解されていることにある。

決して日本の市場は閉じている訳ではない。iPhoneに代表されるスマートフォンは米国での発売からそれほど日をおかずに日本で発売されるし、日本の先進的な(もしくは物好きな)ユーザはわざわざ米国に出かけて行って新しい製品を買い求め使ってみたりしている。

従って日本で起こっている事は、選択の自由がある中で高機能、使いやすささらには慣れなどの観点から、ユーザがまだ従来型の製品の方に軍配をあげているという事ではないだろうか。決して日本のユーザが世界の潮流から取り残されているわけではなくて、むしろより多い選択肢の中で最適な選択肢を選んでいると理解すべきではないだろうか。