シンガポール通信ー大学ランキング

最近NUS内部で少し話題になっていることがある。それは大学ランキングに関するニュースである。NUSの工学部の各学科が世界ランキングで上位に位置している事が発表されたのである。

大学の世界ランキングはいろいろな組織が発表しているが、その1つに英国のクアクアレリ・シモンズ社の発表するランキングというのがある。この会社は世界の各大学の紹介をしたり、希望者にその大学との連絡をとってくれたりなどの仕事をしているようであるが、この会社の1つの仕事として毎年世界の主要大学のランキングを発表している。

この会社の特徴は、全体のランキングと共に学部さらには学科レベルでの詳細なランキングを発表しているところにある。ちなみに、クアクアレリ・シモンズ社の2010年の大学全体での世界ランキングではアジア勢では、香港大学23位、東大24位、京大25位、そしてNUSが31位という順序であった。

ところが工学部に焦点を絞ると、2010年のランキングは、東大7位、NUS9位、清華大11位、京大17位とアジア勢のランクが上昇するのである。まあアジアの大学の多くが工学系に力を入れていることからも、工学系に絞るとランクが上昇するのは理解できるが、東大の7位はおいておくにせよ、はたしてNUSが本当に実力的に9位に入るだろうかという疑問はわいてくる。

そして最近同じくクアクアレリ・シモンズ社から、2011年の工学系の各分野ごとの世界ランキングが発表になった。私に最も関係の深い電気工学を見てみると、NUSは世界ランキング10位でアジア勢では1位である。アジア勢に限ると、以下東大17位、香港大21位、香港科学技術28大、南洋理工大(シンガポール)36位、京大42位、ソウル国立大49位と、50位以内に7校がランクインしている。

他にもNUSは、化学工学、機械工学でも10位で、さらに土木工学ではなんと7位にランキングされているのである。そしていずれの部門でもアジア勢でトップである。

まわりの同僚達はあまり大きな声では言わないが、ランキングの好きなそして世界一の好きなシンガポールの事であるから、皆さん鼻高々なのであろう。そして講演会などに招待された場合は、まず自分の学科が世界ランキングで上位に位置づけされている事を話すのであろう。

まあ自分の大学の世界ランキングにケチをつけてみても仕方がないので、私自身もとりあえずはすなおにそれを受け入れる事にしたいけれども、同時にどのような方法でランキングを決めているのだろうかという疑問もわいてくる。

基本的には、論文数・論文の引用数などの客観的な指標を使うのだろうが、同時に多くの有識者の意見を聞いてまとめている事は間違いない。とすると実力と同時にいわゆるよく知られている事、いいかえると知名度・名声などが大きな意味をもっていることは容易に想像できる。

つまりネームバリューが重要な役割をしているのである。シンガポールに来る以前に私のいた関西の私立大は、世界ランキングには顔を出さないけれども、個々の先生方の実力を比較してみると決してNUSに決して劣る訳ではない。むしろ、ヌニークな個性を持っており独自の研究を進めておられる先生方がおられると思っている。

しかしユニークな研究というのは、極めて高いレベルの成果を出したり、さらには同じ分野の研究者の数を増やさないと、世界レベルではなかなか評価されないという問題をかかえている。対してNUSの研究を見ると、よくも悪くも世界標準の研究テーマを手がけている事に気付かされる。

NUSの設立そのものは1905年と古いが、マレーシアの医科大学として創設されその後長い間医科大学として存続して来た。シンガポール独立後現在の総合大学の形態をとるようになったのは1980年と極めて新しい大学である。

1980年の実質的な創設以来30年程度で世界ランキングの上位に位置するようになったということは、それはそれで高く評価できる事である。しかし、どうも上にも書いたように、世界の研究の潮流を追いかけているという印象を受ける。私の研究所でも、若い研究者がユニークな言い換えると枠を外れた研究テーマを手がけようとしない事が少し気がかりである。この点は今後さらに観察して行きたいと思っている。