シンガポール通信ーシンガポールの選挙2

前回の続きで、日本の選挙とシンガポールの選挙を比較して感じたことをまとめておこう。

選挙や報道は公平か

実質的に一党独裁が行われているシンガポールの総選挙で、選挙の進め方や報道の仕方は公平に行われているのだろうか。

実質的な一党独裁が行われている国は多い。現在話題になっている中東アジアの国々の多くは軍事政権で、民主主義が実施されていない国が多いが、形式的には民主主義国家でも実質的には軍事国家に近い国も多い。

それらの国々では表向きは民主主義で選挙が実施されている場合でも、選挙に行くことや与党に投票されることがほぼ強制されているという話も良く聞く。それに比較するとシンガポールの選挙は見ている限り民主的に行われているようである。テレビも各政党の選挙活動を公平に報道しているようである。

前回も述べたが、テレビの各チャンネルとも、候補者の選挙演説のための時間を用意しており、数分ではあるが全候補者が所信演説を行える仕組みになっている。

また、各政党がスタジアムなどを利用して支持者を集め支援を呼びかける、いわゆる選挙集会と呼ばれる催しを行っているが、これもテレビは公平に報道しているようである。少なからず驚かされるのは、与党の選挙集会と同様におもだった野党の選挙集会もかなりの支持者を動員している様子が報道されている。

したがって、選挙の進め方や報道の仕方は一応公平なように見える。しかし見えるというのと実質どうかというのは異なることが多いので、本当にどうかというところまでは、外部者たる私には見えないというのが正直なところである。

例えば以下のような話を聞いたことがある。シンガポールでは選挙の開票の際は夜遅くまで(というよりは翌日の早朝まで)皆がテレビにかじりついているということである。これはもちろん日本でも見られる現象である。しかし日本の場合は、与党が多数を維持できるのか野党が議員数をどれだけ伸ばせるのかなどに皆の興味がいく訳である。

それに対し、シンガポールでは自分の選挙区で与党議員が選ばれるか否かが心配で、深夜遅くまでさらには翌日早朝までテレビに見入っているというのである。つまり基本的には野党に勝ってもらっては困るのである。

なぜかというと、野党議員が選出された選挙区は、政策の実施時に政府から後回しにされるなどの一種の嫌がらせを受けるからであるという。もちろん日本でも大物議員の地元は国からの公共工事などが回って来やすいということを聞く。

しかし政府が絶大な力を持っているシンガポールで、政府の行う公共政策が後回しにされるということは、その地区の住民に取っては大きな影響をこうむることであろう。与党への投票の強制というような直接的な手段ではないにせよ、与党に投票させるようなある種の力が働いていることは間違いないであろう。

選挙予測はあるのか

その他で興味深いのは、日本だと選挙日が近づいてくるとテレビなどで選挙結果の予測がされることである。一部の選挙権者からの聞き取り調査などにもとづき、各新聞社などが選挙結果の予測をするわけで、これが選挙全体を一種の催し、エンタテインメント的なものにしている。

残念ながらシンガポールでは私の知る限りでは選挙予測というようなものはない。なぜかと考えると、それはこれまでほぼ一党独裁で各選挙区とも与党候補に十分対抗できる野党候補がいなかったからであろう。つまり選挙予測というものが成り立たなかったのである。

今回はどうだろう。前回も述べたが、今回の総選挙ではこれまでになく野党が候補者を多数立てているようである。今回の選挙の結果は、これからのシンガポールの国家体制の進み方を占う良い機会になるのかもしれない。