シンガポール通信ーソウルの美術館2

次に訪れたのはソウル市立美術館である。ここは通常の展示より各種の企画展を行う事でよく知られている。今回は企画展の間の空白期で通常の展示しか行っていなかったので、少々期待はずれであった。韓国の有名アーティスト達の作品が展示してあるが、その多くは他の美術館でも見かけられるようないわゆる現代アートに属するものである。

ただ作品のいくつかには、韓国の歴史の影響を感じる事ができる。韓国は、長い間中国という大国の隣にあり圧力を受け続けながら、独立を保って来た国である。しかしながら近代において、日本による統治、第二次世界大戦、その後の朝鮮戦争、さらには南北朝鮮の分断という大きな変遷を経験している。

特に日本による統治と朝鮮戦争は、韓国の人たちに大きな影響を与えただろう。日本の統治時代の記憶が描かれた絵画が数多く展示してある。それが意味するのは統治国日本に対する怒りであると同時に、現在はお互いの文化が大きな影響を与え合っている関係にある国という意味で、かなり複雑なものであると考えられる。

同時に日本の統治から自由になったと思った直後に生じた朝鮮戦争と、そしてその後の南北朝鮮の分断も人々の心に大きな傷を残しているようである。それは共産主義に対する恐れと憎しみであると同時に、本来は1つの国であった北朝鮮に対する同胞意識の入り交じったものであろう。

最近の韓国の若者にとっては、これらの出来事は日本の若者にとってと同様に、既に歴史となりつつあるのかもしれない。私自身も1980年代に最初に韓国を訪問した時は、日本人である事をかなり意識させされたが、現在は特に意識することなくソウルの街の中を歩く事ができる。しかし韓国の中年以上の人たちは、日本人に対してある種の複雑な感情を持っている事を忘れてはならないだろう。


ソウル市立美術館の外観。



前庭にある桜。既に散り始めているがまだまだ美しい。



美術館の隣で見かけた彫刻。


次に韓国滞在の最後の観光という事で、ナム・ジュン・パイク美術館(NJP美術館)を訪問した。ナム・ジュン・パイクはビデオアートの先駆者の一人である。1960年代から70年代にかけてビデオアートが出現し発展した時期に合わせて活躍した。ビデオアート作品を制作すると同時に、テレビというメディアをオブジェとして用いて、ビデオアートと組み合わせたアート作品を制作して来た事で有名である。

何の気なしにタクシーに乗ったのであるが、 NJP美術館はソウルではなく隣町にあり、タクシーでも1時間近く、料金も50000ウオン以上するとのことである。しかしせっかくだからということで、日曜の夕方から夜にかけての混雑した高速道路を走って、夜8時に美術館にたどり着いた。幸い美術館は夜10時まで開館しており、ほとんど来館者もいなかったのでゆっくりと作品を鑑賞する事ができた。


ナム・ジュン・パイク美術館のロビー。彼のビデオ作品が展示してある。



同様に庭園の中に彼のビデオアート作品が展示してあるエリア。



ビデオアートをオブジェとして用いた作品。