シンガポール通信ーシンガポールの旧正月

シンガポールの冬は雨期である。12月に入ると雨期が始まる。

雨期といっても、2年ぐらい前までは少し雨が多いかなという程度のことであった。元々それ以外の季節でも毎日のように短時間のスコールがあるので、シンガポール人は雨そのものにはなれている。スコールは、晴れて暑い日の夕方頃に決まったようにやってくる。あっというまにあたりが薄暗くなり、まさに車軸を流すようなという形容がぴったりの激しい雨がふる。

とはいっても1時間もしないうちに雨はあがり、さっきまでの雨が嘘であったような晴天が広がる。したがって、シンガポールではスコールが来ると、人々はまたかという表情でデパートやショッピングモールさらには地下鉄の入り口などで雨宿りをする。傘をさして歩いている人はほんの一握りで、大半の人は傘すら持っていない。そしてスコールが上がるとやれやれと言った表情で人々が動き出す。

しかしながら雨期の雨は少し違う。スコールに比較するとずっとおとなしい雨が、数時間降り続くというのが通常である。こうなるとさすがにシンガポールの人たちも、ずっと雨宿りというわけにもいかないので、傘をさして歩くという行動をとる事になる。とはいいながら雨が降るのは数時間長くても半日で、1日中雨ということはほとんどないというのがこれまでであった。

ところが最近特に今回の雨期はかなり違っていた。1日中雨が降っていたり、もしくは1日中曇っており時折雨が降るというような天候の日に出会う事が多いのである。しとしとという日本の梅雨のような、ある種の風情のある雨ではなくいわゆる普通の雨であるが、1日中降っているとなんだか気分の方も沈みがちになる。どうも、最近の日本の梅雨と良く似た天候なのである。

日本でも昔は、毎日のようにいわゆるしとしとと雨が降るというのが梅雨の天候であったが、最近は少し異なるようである。いわゆるしとしとという雨が少なくなり、梅雨でも晴れ間が結構あったりまた反面豪雨が降る事もある。少し風情に欠けるところがあるといったらいいすぎだろうか。いわゆる男性的な梅雨の天候になったなどといわれるゆえんである。

その意味では、最近のシンガポールの雨期は日本の梅雨とよく似ているということができるだろう。数年前までとはかなり異なる天候である。前にもこのブログでも書いたが、シンガポールでは1年を通してほぼ同じ天候なので、シンガポール人は天候に関する感受性を失っているのではないかという感想をこれまでは持っていた。しかしながらさすがにここまで天候がぐずつくと、「なんだか今回の雨期は雨が多いですね」などという感想に出会うこともある。とはいいながらそのような人たちはまだまだ一握りである。

2月に入ると雨期があがる。2月から3月始めにかけての季節は、シンガポールではもっとも過ごしやすい時期だろう。朝夕の気温は20度程度、昼間も30度には届かない。また乾燥しているので、あまり暑さを感じない。ちょうど日本の5月の初夏の気候と言ったら良いだろうか。

そして2月に入ると旧正月、いわゆるチャイニーズ・ニューイヤーである。今年は2月の3日・4日がそれにあたる。この2日間は休日でありシンガポールの町中のほとんどの商店が店を閉じる。かっての日本の正月の風景に良く似ている。といっても何か特別な行事がある訳ではなく、人々は日本と同様に自宅でまたは中国、マレーシアなどの故郷に帰って過ごすのが通常である。

かっての日本は、正月は三が日があけても1週間〜2週間は正月気分であった。この間は人々は挨拶代わりに「明けましておめでとうございます」といいあったものである。最近の日本では三が日があけるともう通常モードであるが、ここシンガポールでは中国、マレーシア、ベトナムなどの人たちは長い休暇に入る。私の秘書はマレーシア人であるが、正月が明けてから2週間の正月休暇をとったので、研究所の仕事が滞りがちになるのであるが、まあこれも風習なので文句を言う訳にもいかない。

特に中国はまだこの習慣が定着しているようである。3月にシンガポールで行われる国際会議に中国の研究者達が数十人参加することになっており、そのビザの発行のための招待状の発送などの準備がありメールで問合わせを行うであるが、この期間中はまったく先方からの返事がない。

ビザの発行にはある程度の時間がかかるので、こちらとしてもやきもきするのであるが、まあ皆さんゆっくりと正月休暇を楽しんでいるのであろう。そして2週間経って2月21日の週になると、とたんに早く招待状を送ってくれと言う催促メールが次々と飛び込んでくる。

招待状は旧正月前に発送したのであるが、正月中は大量の郵便物があるので配送業務が大幅に遅れるのだとのことである。結局多くの招待状は再度FEDEXで送るということになった。年賀状を元旦に届けることを至上命令としてアルバイトなどを雇い込む日本の郵便局とは全く違った対応であり、これもお国柄なのかもしれない。


旧正月を祝って研究所のスタッフの人たちと。願い事をしながら料理を箸で一緒に持ち上げるというのがシンガポールの正月の風習。