シンガポール通信ー国際会議のオーガナイズその2

このところブログの更新をご無沙汰している。第一の理由は、このところ国際会議のオーガナイズ(開催準備)に時間を取られてしまっている事による。

このブログでも書いたが、3月にシンガポールIEEE VR2011というバーチャルリアリティの国際会議を開催する事になっており、私がその委員長を務めている。参加者300人〜400人程度の中規模の国際会議であるが、もちろん私だけで全体のオーガナイズが出来る訳ではなく、多くの人(その大半は大学の先生などの研究者)にボランティアとして協力してもらっている訳である。

自分の研究で忙しい研究者の人たちにこのようないわば雑務に携わってもらうのは、前にも書いたが全く本人のボランティア精神によるところが大きい。ボランティア活動という事は、別の言葉で言うと雑務であり、基本的には彼等に雑務を無理に強制するわけにはいかない。

本人がボランティアとしてこのような会議のオーガナイズに参加する事が、彼等の将来の研究者としてのキャリアに役立つ事を利用して、仕事をしてもらうようにうまく誘導する事がいわば委員長の役目である。

このような会議でのボランティア活動が、どのような形で研究者のキャリアに役立つのだろうか。基本的には,研究者の集う国際会議や国内で開かれる会議のほぼすべては、研究者達のボランティア活動で運営されている。

若手の研究者は、まずそのような会議の運営の一部、例えば投稿された論文の査読などに参加する事からボランティア活動が始まる。そうすると徐々に、そのような査読作業を取り仕切っている委員会(通常プログラム委員会と呼んでいる)の委員などの役割が回ってくる。

プログラム委員会のトップはプログラム委員長であり、プログラム委員長になると投稿された論文から最終的に採択する論文を決め、会議のプログラムを決定するような役割を担う事になる。

プログラム委員会の委員長といえど、もちろんボランティアとして働いている訳である。しかしながら、そこまで上り詰めるには他のブログラム委員などの推薦が必要である。ということは研究者仲間に認知されるという事なのである。

研究者はもちろん優れた研究が出来る事が求められるが、同時に研究者としてのコミュニティの中に受け入れられ認められる事が必要である。これは特に最近グループとして研究を遂行するいわゆるプロジェクト研究が重要になって来た事とも関係している。

結局研究者の世界も、全体としてみると会社のような1つの集団としてみる事が出来る。その集団の使命は科学技術研究を通じていかに社会に貢献するかという事であろう。その集団全体がうまく機能していい成果を出すには、もちろん優れた個人の存在も必要であるが、同時に集団がまとまって機能する事も大切である。その意味では集団の他の人たちと協調し、他の人たちに認められる事は重要である。

もちろん、国際会議運営に携わっている研究者がすべてそのような大義を抱いて動いている訳ではない。しかし、ボランティア活動を行うことが大局的なさらに長期的な意味では自分自身のためになることを直感的にわかっているからこそ、このような雑務をこなす事が出来るのだろう。

もっとも短期的に例えば1年程度の期間で見ると、このようなボランティア活動は全くの雑務であって本人の研究活動に直接役立つ事は全くといってないだろう。したがって自分の研究に最大の重点をおいている若手の研究者の中にはあまり積極的に動きたがらない人たちも出てくる。

これらの人たちにいかに動いてもらい、全体としての会議のオーガナイズを進めるかというのが委員長の頭を悩ますところである。とはいいながら、なんとか会議のスケジュールなどに関してはほぼ決まって来た段階である。だいぶ進んで来たなと少し安堵しかけたところであるが、現在また難題が出て来た。

この会議はIEEEという技術系では最大の学会がスポンサーとなっており、会議を開催するには、IEEEに予算案を提出して認めてもらう事が必要である。認めてもらえれば、赤字になった際にもIEEEが補填してくれる。

ところが、今回は前年の会議がかなりの赤字を出したという事で、IEEEが予算案を精査しており、なかなか許可が下りない。一方で、もう会議開催まで2ヶ月なので、支払いが必要なものも出て来ている。

大きなものとしては会場費がある。今回の会場はシンガポールSUNTEC Convention Centerで行うがその会場費(日本円で約300万円)の半額の前払いの期限は今月末である。許可が下りればつまり予算案が認められれば、会議参加費のレジストレーションを開始でき、そのレジストレーションの入金で払う事が出来る。

ところが予算案が認められないので、まだレジストレーションが開始できない。一方で、支払いの期限が迫っている。いわゆる自転車操業という奴である。いろいろと手を回しているのであるが、結局のところ、国際会議の委員長である私が責任を持たなければならないようである。つまり、予算案が通る事を期待して私の金で前払いを済ます必要があるらしい。

なんだか中小企業の社長をやっている気分である。