シンガポール通信ーGlobal Social Innovators Forumの報告4

Global Social Innovators Forum (GSIF)の報告が長々と続いたが、最後に最終日に行われたプレナリーセッションの報告。プレナリーセッションのタイトルは”Imagine the world in 2030”で2030年の世界を予想してみようというものである。講演者は私の他に以下の3名であった。

Brian Behlendorf:前回のブログでも紹介したが、米国政府のアドバイザとして、 米国政府が米国民の健康管理などをどうサポートするかに対する意見を具申するという立場にある。近々この職を辞して、World Economic Forumの方に移るとの事である。

Willow Darsie:起業家支援、女性問題支援などを主たる仕事として独立したコンサルタントとして活躍している女性。

Walt Mayo:ハーバード大を卒業後、米国外務省に勤務し、その後デルなどで働いた後、現在はアジアを中心に起業家、技術革新などを支援する非営利団体で活躍している。

3人の経歴や現職を見てみるとわかるように、いずれもコンサルタントなどとして独立した立場で,現在世界で起こりつつある種々の問題を解決するため働いている人たちである。

日本でもNPOの活動などが盛んになりつつあるが、なかなかそれだけで飯を食うのは難しいので、仕事の傍らとか退職した後の活動などの位置付けで働いている人たちが多いのではないだろうか。

それだけを本業として生活するのはなかなか大変ではないかと思い、収入はどうしているのかなどと聞いてみたくなるが、ともかく3人の講師はいずれも生き生きとしている。

このような、独立コンサルタント、起業家、NPO創立者などが参加しているのが本会議の特徴と言えるだろう。これはWorld Economic Forumも同様であり、世界各国の政府の要人や企業のトップと肩を並べて、これらの一匹狼として活躍している人たちが参加して意見をかわしているというのは、なかなか興味深いアレンジメントではないかと思う。

さて20年後の世界を占おうということであるが、現在から20年前を振り返ってみるとわかるように、20年間で起こる変化は全く予想できないというものではない。

20年前には、すでにメールは研究者の間ではコニュニケーションの手段として普及していたし、携帯電話も普及しかけていた。ファミコンの発売が1983年であるからすでにゲームは人々の間で普及していた。

また1991年のソ連の崩壊がちょうど20年前であるから、現在の世界の基本的な政治の仕組みも20年前にはほぼ出そろっていたと言えるだろう。

したがって今後の20年を予測すると、中国がどこまで勢力を伸ばすのか、米国を押しのけて世界の覇者となるのか否か、そして現在起こっているコミュニケーションの手段ややり方の変化がどこまで続くのかといった事になるであろう。

したがって、講演者はいずれもそのような枠組みの中で、今後は個人の役割が今までより飛躍的に重要になる事、そしてそのためには起業家精神がすべての人々特に若い人々に求められる事をそれぞれの立場から論じていた。まあこれはそれぞれの講演者の立場を考えれば当然の意見であろう。

私は少しあまのじゃく的なところがあって、他の人たちと少し異なる見方から意見を述べるように心がけている。これはうまくあたると議論が盛り上がるのであるが、他の人の意見とうまく噛み合ないとすれ違いになってしまうというリスクがある。ともかくも私の述べた意見は以下のようなものである。

現在中国の経済躍進が著しく、中国がどこまで伸びるかという議論が盛んであるが、その議論の多くは現在の世界全体のシステムの中での話をしており、皮相的な意見が多い。現在の世界の政治・経済を含めた全体のシステムはあくまでも欧米的な価値観、考え方の上に立っている。

政治的には民主主義であり、経済的には資本主義である。ところが中国は共産主義と資本主義の共存という従来の欧米的な価値観からは理解困難な枠組みで成り立っている。

中国の価値観がそのうち欧米の価値観に近づくだろうという考え方が一般的であるが、私自身は現在起こりつつある事はもっと本質的な事ではないかと思う。それは欧米的価値観に対してアジア的価値観が台頭しつつある事である。これはもしかしたら今後の世界のシステム全体を変えてしまうかもしれない。(その一端が携帯電話の使い方に見られるように欧米人の行為がアジア的になって来ている事に見られる。)

20年間でそれがどこまで実現するかはわからないが、ともかく21世紀はその意味で中国の時代というよりはアジアの時代であると私は思っている。私たちは、今後の世界を変えるのはアジア人であるという自信を持って行動すべきではないか。
大見得を切った発言であったと後で少し自分でも恥ずかしくなったのであるが、結構観客には受けて大きな拍手をもらったし、講師間の議論も盛り上がった。


プレナリーの講演者による議論の様子。



最後に記念写真。左から2人目がこのGSIFの創立者であるPenny Low。彼女はシンガポールの国会議員であり、近いうちに大臣就任が噂されている。大臣クラスの人が国際会議を主催するというのもシンガポールらしい。