シンガポール通信ーGlobal Social Innovators Forumの報告3

2日目はもう1つ別のセミナーに講師として引っ張りだされた。セミナーのタイトルは”Inside A Gamechanger’s Mind!”である。

タイトルだけ見ていると、ゲーム制作者に未来のゲームを語ってもらうセミナーのようであるが、そうではなくて、ここでいうゲームはもっと広い意味に使われている。いってしまえば、世の中の出来事すべてをゲームと言っている訳である。

つまり、世の中を変えて行こうとしている人たちが未来をどう考えているかという意味かと思われる。司会はこのGSIF全体のオーガナイズを行っているSocial Innovation Parkという会社(会社と言っても非営利団体に近い)の経営陣の一人で女性である。

またもう1人の講師であるBrian Behlendorf氏は、米国政府のアドバイザとして、米国政府が米国民の健康管理などをどうサポートするかに対する意見を具申するという立場の人である。彼は、医者と一般市民の間のオープンなネットワーク作りに力を入れており、オープンネットワークが今後の社会のインフラとして極めて重要な役割を果たすことを、自分の立場から強調した。

一方私の方は、セミナーのタイトルにもう少し忠実に、ゲームを含めたエンタテインメントがどう社会を変えて行こうとしているかという観点から意見を述べた。その内容に関してはこのブログでも少しずつ述べているので、ここでは詳しくは繰り返さないけれども、まとめると以下のようなものである。

本来エンタテインメントは人間の生活において重要な役割をしていた。ところが時が経つと共に仕事・教育など他のアクティビティの重要性が叫ばれると共に、エンタテインメントの重要性が軽視されるようになってきたのではないだろうか。それが近年、携帯電話・ゲーム等の新しいメディアの出現と共に、その重要性が再認識されるようになって来たというのが現在生じている状況ではないか。この点から将来を予測すると、将来はエンタテインメントと他の分野例えばビジネスや教育などとの境界が再び低くなり、多くの人間の活動がエンタテインメント性を帯びるようになるだろう。というのが私が主張した事である。

このままだと Brian Behlendorf氏の意見と噛み合ないようであるが、彼が健康の増進という分野に関わっているため、そこを接点として議論を発展させて行った。すなわち、エンタテインメントは人間の健康にとってどのような意味を持っているのか、言い換えるとエンタテインメントは人間の健康に良いのか悪いのかといった議論である。

スポーツをエンタテインメントの1つとしてみると、もちろんスポーツは人間の肉体的な健康にとっていい事は明らかである。そして、「健全な精神は健全な肉体に宿る」と言われるように、肉体的な健康にとっていいということは、精神的な健康にとってもいいわけである。

それではゲームはどうか。どうもゲームに関しては、健康に良いという意見は少数派のようである。むしろゲームは青少年の健康(特に精神的な健康)に悪いという意見が一般的なのではないだろうか。そしてこのセミナーにおいても、聴衆からもそのような意見が聞かれた。

しかしこれは私自身の経験からきていることであり、私の著書にも書いた事であるが、私は少し異なる意見を持っている。ゲームをしている状態、特にゲームを始めた最初の内はゲームに没入する事により、すべてを忘れいわば忘我の状態になる。これは座禅などの瞑想状態に近いのではないか、そして瞑想状態は精神を明晰にしてくれるのではないかというのが私の意見である。

最近私の研究所で米国の大学からリクルートした女性の研究者と話している時、まさに彼女がそのようなテーマを研究している事を知って驚かされた。彼女はチベットの僧が瞑想している時の脳波を計測したり、また瞑想後に種々の問題を解いてもらうことによって、瞑想が人間の集中力や問題解決能力を増大させるという結果を得ている。

私は彼女に、ぜひともゲームをしている時の脳の状態や短時間ゲームをした後での人間の集中力・問題解決能力を測定して、ゲーム時と瞑想時が似ている事を確かめてもらいたいと頼んでおり、近い将来にその具体的なデータが得られると思うけれども、ともかくも話の上では彼女は私の意見に賛成してくれている。

つまりゲームは短時間であれば人間の脳に取っていい影響を与えるはずなのである。(長時間ゲームをするとそうではなくなる事は予想できる。それがどの程度の時間なのかなどは興味深い研究テーマである。)

というようなことを言うと、 Brian Behlendorf氏や司会者も興味を持ってくれ、また聴衆とのディスカッションもこの話題を中心として盛り上がった。

最後に司会者から、なぜお前は髪を染めているのか,またなぜそんなに若く見えるのか、それはゲームをするからなのか、という質問をもらって苦笑してしまった。それは私もわからない、というのが正直な回答なので。


セミナーの中でBrian Behlendorf氏と議論中。