Global Social Innovators Forumの報告2

今回のGSIFではいろいろな催しに引っ張りだされたが、前回報告したワークショップの他にいくつかのセミナーに講師として参加した。

まず最初のセミナーはCreativity and Innovation for Children using New Mediaをテーマとしたセミナーである。これは、子供と新しいメディアの関係、そして新しいメディアが子供の創造力にどのように影響するかを議論する事を目的としたセミナーである。

セミナーは司会者と2人の講師から構成され、司会者が2人の講師からテーマに関する意見を聞きつつ、聴衆と講師とのインタラクティブな意見のやりとりを行おうというものである。これもWorld Economical Forum (WEF)のセミナーと基本的には同じ設定になっており、GSIFがWEFをかなり意識した構成になっている事は確かである。

さてこのセミナーは、司会はAdrian Cheok、講師としては私と茂木健一郎さんの計3人で、この3人が聴衆を巻き込みつつ議論を盛り上げる事が求められる。AdrianはNUSと慶応大学の2つの大学の先生を掛け持ちでやっており、生活の半分は日本で過ごしており、茂木さんとも良く知り合いの仲である。

私はもちろんAdrianとはNUSの同じ研究所なのでよく知っている。また茂木さんはセミナーの講師としてご一緒する事は初めてであるが、講演なども何度かお聴きしているし何度か一緒に食事もしているのでので、まあよく知った仲と言えるだろう。


講演直前の司会と2人の講師。左から茂木健一郎氏、Adrian Chaok、そして私。


さて、議論はインターネットに代表される新しいメディアによって情報過多となった現代において、果たして子供達の創造力はどのような影響を受けているのか、そして未来においてそれはどうなるのかといった所から始まった。

茂木さんの意見は、情報過多と言ってもその多くはノイズと考えられるし、人間はノイズの含まれた情報から意味ある情報を抽出する事にたけており、情報過多という事をあまり心配すべきではない、というものである。

基本的には私もこの意見に賛成である。人間は太古の昔から、周囲の環境の変化に適応する事により、生存しかつ進化して来た。現在起こっている情報過多という状況も、人間にとっては新しい状況であり、それに十分適応できるだけの柔軟性と適応力を人間は持っているというのが私が主張した点である。

聴衆を巻き込んだ議論はこの2人の意見を中心として発展して行った。2人の講師の意見は基本的には情報化社会における子供の適応力や創造性に対して楽観的な意見であるので、これに対する反論やまたそれに対する講師の意見などを中心として議論が発展した。

数年前までであると、携帯電話やゲームなどの新しいメディアに対して、攻撃的もしくは否定的な意見がよく一般の人々から聞かれたものである。しかし、人々がそれらのメディアの使用に慣れて来た事、また現時点では子供達の創造性などに対して深刻な問題が生じていないことから、人々のこれらのメディアに対する見方も変わりつつある。

その意味では、このセミナーでは極めて深刻な議論に発展するということはなかった。しかし見方を変えれば、人々が新しいメディアの使用に対しごく短い間に慣れてしまい、それに対して大きな疑問を抱かなくなったというのは問題と言えば問題である。

人間は生物として本来持っている適応能力もっと言うと進化能力を用いる事により、放っておいても新しい状況に容易に適応できる。と同時に、人間が他の動物と異なるところは、人間の進歩にとって望ましい新しい状況を自ら作り出すという能力も持っていることである。

常に問題意識を持つという事は新しい状況を作り出す際に必要なことではないだろうか。その意味ではもう少し掘り下げた議論に発展させたいところであった。


セミナーが終わってほっとしている司会と2人の講師。