シンガポール通信ー国際会議のオーガナイズ

ところで、11月はまだ数回しかブログを更新していない事に気がついた。なぜだろうと考えると、このところ国際会議のオーガナイズでずっと忙しいことがあることに気付いた。

現在、来年3月にシンガポールで開催されるIEEE Virtual Reality 2011 (VR 2011)という国際会議の委員長(General Chair)をやっていて、そのための雑多な仕事をこなさなくてはならない。

これが会社だと、他社との会議や展示会への出展などの会社の対外的な行事として行う仕事は、トップダウンに役割も決まり組織として動くのであるが、大学はなかなかそうはいかない。

しかも国際会議のオーガナイズは、大学の先生方がボランティアとして働いてくれる事により成り立つものである。ミーティングを招集してみても「今日は忙しいので」などと言われると、それ以上強制するわけにもいかない。もちろん喜んでボランティア活動をしてくれる先生方もいるのであるが、逆にできるだけ仕事を引き受けたくないという先生も多い訳である。

というわけで、結局のところかなりの部分を自分で担当せざるを得ない事になる。会場であるSUNTECコンベンションセンターも、何度も足を運び先方の担当者と協議しながら部屋割りを決めるという仕事をこなすこととなった。

また会場周辺のホテルも、結局のところ自分で歩いてみて会場までの時間を計ってみたり、ホテルの部屋やその他の設備も自分の目で見てチェックしたり、さらにはホテルの担当者と部屋の値引きの交渉もするという事が必要になり、実際自分でそれを行った。

現在は予算計画を作っている。国際会議では参加者からの登録費が主たる収入なのであるが、結局のところ何人参加するかは、ふたを開けてみないとわからない。本当は主たる収入がわからないと計画の立てようがないのであるが、他方で出来るだけ正確な予算の案が求められる。

そのため、昨年の参加者数などをベースとして推定する必要があるが、大手の国際会議がそうであるようにこの会議も主として米国での開催が多かったので、シンガポールで開催というとなかなか正確な参加者数が読みにくい。特に、まだ米国の景気の復活が本物ではないようで、研究予算は削減気味のようである。研究予算が削減されると、国際会議参加などの費用が真っ先に影響を受ける。

とはいいながら、引き受けた以上は仕事なので、ああでもないこうでもないと考えながらなんとか予算案をまとめるのであるが、先にも言ったように結局は予想でしかあり得ない。したがって、赤字にならないだろうかという恐れはずっとつきまとってくる。

しかも昔であると、国際会議というのは観光の良いチャンスだったので、論文発表以外は参加者の皆さんあまり興味は持たず、レセプションとかバンケット(晩餐会)などは質素なものでも大丈夫であった。

ところが最近は皆さん国際会議が多い事もあって、観光慣れしてしまっている。つまり多くの参加者は以前に来た時に観光してしまっているのである。したがって、むしろまじめに会議に参加して、レセプションやバンケットをいいネットワーク作りの場として活用しようという参加者が多くなっている。

つまり、レセプションやバンケットにそれなりの食事や飲み物の量と質を求めるのである。そのため、出費の方はかなりの部分が固定費となってしまっている。参加者が少ないからといって、それに比例して出費が少なくなるという訳ではないのである。

現在オーガナイズ作業を進めているVR 2011も予算案を作ってみると、結構収入と支出がぎりぎり釣り合うような状況である。つまり何か少し出費がかさむと赤字になるということである。もっと具体的に言うと、レセプションやバンケットの際に参加者がビールやワインなどのアルコールを多めに飲むと赤字になる可能性があるという事である。

そこまで苦労してなぜ国際会議のオーガナイズをするか。一言で言うと国際会議のオーガナイズがキャリア(経歴)になるわけである。

研究者としてのキャリアはもちろん第一義的には論文の数と質で決まる。若いうちはそれで良いのであるが、徐々にそれに加えて学会などの研究者の組織の中での活動も重要なファクターとなってくる。いろんな委員会の委員をこなしたり、さらには学会の理事、会長などの重責を務める事が研究者のキャリアとなってくる。

まあ言ってしまえば研究者コミュニティ内での社会貢献のようなものである。国際会議のオーガナイズもそのような社会貢献の1つであり、経歴に記述する重要な項目の1つになる。もっとも、自分の履歴書に1行加えるためにいろいろと苦労するというのは、割に合う仕事かどうかはよく考える必要がある事かもしれないが。