シンガポール通信ーシンガポールの車事情2

少し脱線するが、私は現在大学の家族寮に住んでいる。集合住宅形式で、日本式に言えばアパートもしくはマンションといったところである。私の住んでいるのは2ベッドルーム、書斎、台所、およびリビングから構成される日本式に言うと3DLKであるが、驚いた事にメイド用の部屋と専用の入り口がある。

メイド用の部屋と言っても、狭いしシャワーもトイレもないので決していい条件とは言えないが、ともかく大学の教員用のアパートにメイド用の部屋が備えてあるという事が驚きである。事実メイドを雇っている先生方は多いようである。

朝夕の通勤時などに小さい子供が遊んでいるのに人が付き添っているのをよくみかける。当初は当然母親だろうと思っていたが、どうも顔つきが異なる。さらには着ているものも子供のそれに比較すると質素である。

つまり、それはいずれもメイドが働いている家庭の子供の面倒を見ているのである。中級クラスの家庭がメイドを雇うのがごく普通であるというのは、何度も言うが私にとっては驚きである。

さて、シンガポールの車事情に話を戻そう。

前回も書いたが乗用車に関しては、日本の車が大半を占めており、しかもそのメーカー別、車種別のシェアが極めて日本と似ているので、道路を走っている乗用車だけを見ているとなんだか日本にいるかのような感覚を持つ。特に日本同様に右側通行、右側ハンドルなのでよけいにそう感じる。

ところがトラックやバスなどのそれ以外の車になると状況が異なってくる。

何が違うかというと、日本だと乗用車もバスもトラックも総じて同じ程度の年式の車が走っている事が多い。もちろん購入後10年以上経過した車も走っているとはいえ、新車〜購入後5年程度の車が大半を占めているのではないだろうか。つまり、乗用車もバスもトラックも総じて新しく、しかも手入れが行き届いている。

ところが、シンガポールでは事情が異なる。前回も書いたように乗用車は日本と同様新しい車が多いし、毎日のように洗車されよく手入れされている。ところがトラックとバスはそうではないのである。

まずトラックであるが、いずれも極めて古い形式のものが多い。10年はおろか20年も昔のものではないかというトラックが現役として走っている。もちろん洗車などはしていない。塗装もはげかかっているものが多い。

当初はあまり気にしていなかったのであるが、この間そういえばなぜだろうとふと思い始めた。そしてその結論は、シンガポールではトラックの需要が大きくないからではないかというのが結論である。

シンガポールは人口500万人、面積は淡路島程度であり、極めて小さな国である。国内の製造業もあまりない。国としての利益の大半は貿易で稼いでいる。ということは、国内で会社で製造された製品などの「モノ」を運ぶ仕事やその必要性があまりないということなのである。

貿易で持ち込まれたものや、持ち出されるものはいずれもシンガポールを経由してるだけである。いいかえると、シンガポールの岸壁に暫定的にコンテナとして積み置かれるだけであり、シンガポール国内での移動の必要性はないのであろう。

この間JST科学技術振興機構)のシンガポール事務所の所長の山下さんとこの話をしていたら、そういえばトラックはマレーシアナンバーが多いという事を教えてもらった。多分、食料品などの消費物をマレーシアなどからそこのトラックを使ってシンガポールに運び込む事が多いのであろう。

逆に言うと、シンガポールから近隣の国々への輸出は決して多くはないのであろう。つまりシンガポールは貿易収入にそのほとんどを依存しているということもできる。もちろんシンガポールの地理的有利さを活用した貿易は今後ともシンガポールの主要な収入源である事は確かである。

しかしながらそれは、シンガポールの経済が諸外国の経済状況に強く依存している事を意味している。事実2009年の世界不況の際は、シンガポールの経済成長率はマイナスであったという事も聞いている。本来ならば大変なのであるが、これまでの蓄えをベースとした政府の財政出動により乗り切ったのであろう。

とするならば、これからのシンガポールは、モノではなくてソフトウェア・コンテンツなどのソフトを海外に輸出する事で稼ぐ事をめざす必要があるだろう。多分今後10年間のシンガポールの課題は、この分野でいかにして海外に輸出できるものを作り出す力を持つかという事かと思われる。

さてまたしても脱線してしまったが、最後にバスについて。シンガポールの路線バスは総じて古い。トラックほどではないにせよ10年もしくはそれ以上経っているのではというバスが走っている。


シンガポールの二階建て路線バス


最もこれは日本の方が異常なのかもしれない。例えば京都の市バスなどは赤字なのであるが、車体はいずれも総じて新しい。新車とおぼしきバスにもよく出会う。しかし考えてみれば赤字なのになぜ新車を買う余裕があるのかという気もする。

ひるがえって、シンガポールのバスはいずれも耐久年度ぎりぎりまで使おうという考え方の様であり、これはある意味で健全な考え方なのかもしれない。

さて最後に観光バスであるが、シンガポールでは観光バスというのにあまりお目にかからない。もちろんいないわけではなくて時々出会うのであるが、その数がいかにも少ないのである。また車の程度も路線バスとまでは行かなくても日本のように手入れの行き届いた新車に近い観光バスというのはあまりお目にかからない。

いずれもそれほど古くはないものの少しくたびれた感じがする観光バスなのである。これも考えてみれば、シンガポールのような面積の小さい国では観光バスのニーズが少ないという事を示しているのであろう。

しかも、カジノ、観覧車、ユニバーサルスタジオなどの観光客が訪れる場所というのはいずれも市街から近い距離にあり、観光バスを仕立てて行くほどの距離ではないのであろう。

というわけで、なるほど車を見ているだけでもシンガポールの特徴や置かれた位置というものがわかってくるものである。