シンガポール通信ー尖閣諸島問題2

領土問題が外交上の微妙な問題である事を認識するには、例えば北方領土問題を考えてみるといいだろう。

国後、択捉、歯舞、色丹の北方四島を固有の領土であると日本政府は従来から主張してきた。しかしながら敗戦に伴う領土放棄の際に北方四島も当時のソ連の統治下に入ってしまった。

その後、ソ連も領土権を主張し始めたために、両者の主張がぶつかる対立状態になってしまった。大国ソ連を相手に正論を押し通してみても勝ち目がないので、結局日本政府が取って来たのはことあるごとに北方四島が日本固有の領土である事を主張し、返還を要求する事であった。

当然もっと強気の態度を取れという国内の意見はあったのだろうが、強気の態度と言っても具体的な案がある訳ではないので、結局返還を辛抱強く主張し続けるという戦略をとるしかないというのが、実際のところであったのであろう。

ソ連からロシアに政治体制が変わった時も、先方は領土問題に関してはソ連時代の態度を継続しており、同様に領土権を主張している。しかし最近は態度が軟化しつつあるようで、将来的に北方四島を日本に返還する事はやむを得ないというのがロシア側の考え方のように思われる。

しかしながら、といってここで日本が領土権の主張を声高に行うことは得策ではない。そうするとロシア側の態度を再び硬化し、ロシアが再度領土権を主張しはじめることになるだろう。

結局のところ、先方の状況を見つつ、かつ先方の顔も立てた形での解決策を取らざるを得ないのである。つまり、ロシア対日本の関係からすると、ある時点でロシアが日本に自主的に返還するという方向にもっていくのが望ましいのであろう。

ともかく北方四島の返還問題に関しては、日本政府は外交上のルールに則った政策を取って来た訳である。そのような見方からすると、今回の尖閣諸島問題はいかにも日本政府の対応が稚拙であったと言えるのではないだろうか。

前回も述べたように、漁船の船長を逮捕することはそこが日本の法律の及んでいる場所である事を明言する事になり、それを見逃しては中国としては尖閣諸島が日本領である事を基本的に認めた事になる。それは過去の経緯、国内の世論を考えた場合とても認められる事ではないだろう。

結果として中国は極めて強気の対応策を取らざるを得ない。レアメタルの輸出禁止、フジタ社員の拘束、そして船長の解放後の中国側からの謝罪と保証金の要求は、上記のような見方から考えると当然なのであろう。

問題は日本政府がそこまで考えて船長逮捕に踏み切ったとは思えない事である。少し毅然とした態度を取る事によって、日本国内での管政権の支持率向上につながるのではとでも思ったのであろう。それが中国側の強硬な対応策に出会い、慌てふためいたというのが実情だろう。

自民党側からも指摘されているが、外交上の経験がないので適切な対応がとれないのである。大騒ぎになってからあわてて船長を解放というのもいかにも外交上の経験のない事を内外に暴露したという意味で情けないと言わざるを得ない。

日本の世論が管政権の対応を非難するのは、中国側の圧力によって船長の解放をしたという事に向けられているのではない。直接的にはそう見えるが、実際には逮捕した時にそれ以降の状況も考慮して逮捕したのではなく、逮捕から解放までその場しのぎの対応の連続をしている事を非難しているのである。

そのような考え方からすると、このような場合に従来自民党政権が取って来た強制送還するという対応策は、いわば事をうやむやにしているのであるが、外交上の常識にのっとった対応策であったと理解できる。

しかし私たち一般大衆も今回の件で外交問題が微妙な点を含んでいる事な学んだのではないだろうか。今回の中国のような外交策を弄する国々と対等に外交問題でやりあっていくためには、日本ももっともっとしたたかになる必要がある事を。