シンガポール通信ーエンタテインメントコンピューティング国際会議

少し前の話になってしまうが、9月の初めに韓国ソウルで行われたエンタテインメントに関する国際会議であるICEC2010 (International Conference on Entertainment Computing)の報告をしておきたい。

ICECは、技術を中心としてエンタテインメントに関する研究の最新動向を発表する場として、私や欧米のこの分野の研究者が集まって2002年に設立した会議である。

エンタテインメントというと、どうしても話題の中心がゲームの技術や最新のゲーム機器/ゲームソフトに行きがちである。確かにその分野の国際会議、展示会などは数多く存在している。今更ゲームに関する新しい国際会議を作る意味は少ないかもしれない。

しかしながら、私たちはそれに対して、エンタテインメントの定義をもっと広く取り、遊び一般や、スマートフォンiPadなどの最新のメディア、そしてさらにはアートまで含めたものとしてエンタテインメントをとらえ、エンタテインメントがどの方向に行こうとしているかを議論する場が必要だと感じていた。

当然、ゲームなどの最新のエンタテインメントが人々の精神面にどのような影響を与えるかも重要な話題なので社会学や心理学との連携も必要になる。

国際会議というのは、若い研究者からすると同じ研究をしている仲間達との発表や意見交換が発表の場なので、対象とする研究領域を限定し明確にした方が同じ仲間との出会いも期待されるため参加しやすい。一方であまり研究領域範囲を広げると、焦点の絞りどころが難しくなる。

しかしながら、現在のゲームに代表される新しいエンタテインメントの急激な普及やそれらが人々の生活スタイルを大きく変えて行っている事から、エンタテインメントの動向やそれが社会に与える影響、そして今後のエンタテインメントの向かうべき方向を考える事も大切である。

幸いにも、IFIP (International Federation on Information Processing)という情報処理の研究振興を目的とした国際レベルの組織でエンタテインメントコンピューティングに関するTC (Technical Committee)と呼ばれる技術部会の設立が認められたので、この技術部会の活動の1つとしてこの国際会議を位置付けようということになった。

2002年に日本で最初に開催してから、順にアジア、ヨーロッパ、アメリカで毎年1回開催するというルールを守って今回まで推移して来た。アジアでの開催は今回で4回目であり、韓国での開催がなかった事から,今回は韓国ソウルでの開催となった。

このブログでも5月にソウル訪問の報告をしたが、その際のソウル訪問の1つの目的はこの国際会議の会場の下見などの下準備をすることであった。

今回の会議では韓国の国営の研究機関であるKAISTのHyun Yang先生が委員長となって企画と運営の作業を進めてくれた。インターネットのおかげで、国際会議の企画は以前に比較するとずっとやりやすくなったとはいえ、最後は皆さんに会場に来てもらう必要があるので、会期半年ほど前から会期終了までは、委員長の仕事は本当に大変である。改めてここで感謝しておく。

Yan先生は、今回はエンタテインメントに関する種々の異なる領域から招待講演者を呼んで、参加者に最新のエンタテインメントの動向を知ってもらいたいというのが、かねてからの念願だったため、今回は招待講演者の選定や先方との交渉などが会議の企画のかなりの部分を占めたであろうと想像する。

私も米国の映画業界から誰か招待してくれないかとYan先生に依頼され、いろいろなルートを使ってアプローチした。なかなか大変であったし時間もかかったが、最終的にはワーナーブラザーズの技術部門の副社長のMassimiliano Gasparri氏とソニーピクチャーズの技術系副社長のGeorge Joblove氏を招待する事に成功した。(写真は続きに載せる予定。)

お二人の話としては、最近の3D映画の話などが中心なのだろうと考えていた。しかしむしろ、ハリウッドに代表される米国の映画業界がどの方向に行こうとしているかという私たちの学会としてはより聞きたかった話をして頂いた。

基本的にはハリウッドが最も関心を持っているのは映画コンテンツであり、彼等のノウハウの固まりでもある映画コンテンツをいかに多くのチャンネルを使って流通させて行くかにハリウッドの将来がかかっているという大変納得できる講演であった。

他にもバーチャルリアリティ研究の権威である慶応の舘先生、メディアアートの先駆者であるロイ・アスコット先生、トーセの社長である斎藤さん(トーセというのはOEMを中心としているが実質的に日本のゲームソフトの開発では最大の会社である)など、よくこれだけの人を集められたと感心する招待講演者の陣容であった。