シンガポール通信ー東洋思想と西洋思想

「東洋思想でグローバルとコミュニケーションしていこうと意気込んでいるものですが、西洋思想と東洋思想をブリッジするものは、何でしょうか?」というコメントを頂いた。さてどう答えたものだろう。

私は基本的には技術者で、思想や哲学に関しては全くの素人であるが、これまでの自分の経験やそれに基づいた直感、さらには貧しい読書経験にもとづいて、自分の考えている事をこのブログに書いてきたというのが実情である。

そのような状況なので、上のように直球を投げられるとうろたえてしまうところがあるのだけれども、自分でも東洋思想と西洋思想に関しては考えるところもあるので、現時点での考えを書いておこう。

よく東洋思想と西洋思想という分け方をするし、また西洋と東洋における文化の違い,人間の性格の違いなどがいろいろと議論される事がある。そのため、どうしても私たちは世界の人間が大きく西洋と東洋という二つのグループに二分されると思ってしまう。

しかし最近は、基本的には人間としては同じであって、同じ感じ方・考え方をするということを感じるようになった。これはもちろんこれまでの国際会議などを通して知り合った海外の知人との付き合い、シンガポールに来てからのこちらでの付き合いなどを通して感じる事であるが、それ以上に私の経験の中で強い印象を私に与えた事がきっかけになっている。

それはATR時代における経験にさかのぼる。ATRでは、海外からの客員研究員と日本の通信メーカーからの出向者が研究グループの中心を構成していた。通信メーカーからの出向者は、もちろん会社のエリートが経験のために送り込まれることも多いけれども、同時に企業としては取り扱いに困っているいわばお荷物の人が送り込まれる事も多い。

当然これらの人たちは最初は萎縮している。しかも周りの海外からの客員研究員は自己主張の強い人たちである。最初はこの状況を見ていると、「日本人が内向きで自己主張が弱いというのは本当だな」と思ってしまう。

ところがそのうち徐々に状況が変わってくるのである。海外の研究員との付き合いを通して彼等の考えがわかってくると、出向者が「なんだ、それほどすごい考えでもないじゃないか」と思い始めて、自分の考えを最初はおずおずと述べ始めるのである。

そしてその考えが受け入れられることがわかると、徐々にそれが自己主張へと変わって行く。そして1年も経たないうちに国際会議などでも堂々と自分の意見を発表するようになるのである。

この状況を見ていると、日本人は本質的に自己主張が弱いという考え方が間違っていた事に気付かされた。自己主張の欲望、そしてそれを行う能力は人間が平等に持っているのである。ではなぜ日本人が自己主張が弱いといわれるのか。結局のところ、それは教育であり周囲の環境の影響によるのである。

残念なのは、それらの人たちが出向元に戻った時、多くの人が企業の文化の中で再び自己主張の弱い日本人に逆戻りしてしまうケースを見た事である。このことは、残念であるがそれだけに周囲の環境や文化が人間の行動に大きな影響力を持っている事を示している。

気候の違いが人間の行動様式や文化に大きな影響を与えるという事に関しては、古くは和辻哲郎の「風土」があるし、最近の本としては、ジャレド・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」があるが、ともかく私としては自分の経験からもそのように思うわけである。

さて西洋と東洋の思想を考えたときやはり最も大きな違いは西洋の二元論とそれに対する東洋の考え方である。

西洋ではプラトンが人間の心の働きを理性(ロゴス)と感性(パトス)にわける事を言い始めた。また時代が下ると、デカルトが人間を心と身体の働きにわける事を提唱した。これはその後の「唯心論」対「唯物論」の対立などにつながっている。これらが西洋の二元論といわれるもので、それはいろいろと形を代えて現在にも引き継がれている。

このとき重要なのは、西洋においては二つの要素が相対するものさらには相反するものとして理解されていることではないだろうか。その結果として、いずれに立脚点を置くかでそれらの二つの立場の間で論争が繰り広げられる事になる。

その結果として、いずれの派も自分の立場を主張することになり、その結果としてそれぞれの立場を極端化してしまいがちな事ではないだろうか。結果として、唯物論は人間と機械を同一視する「人間機械論」を生んだり、唯心論は神秘主義に走ったりする。

まとめると、西洋においてはまず人間を周りの自然から切り離し「人間対環境」という考え方をし、さらに人間を「心対身体」という対立図式として見て、さらに心を「理性対感情」として見るという見方をしてきたといえる。そしてそのそれぞれを対立するものとしてとらえるという考え方をして来たといえる。(少し単純化しすぎている事をお許し願いたい。)


(続く)