シンガポール通信ー参院選

参院選民主党の惨敗という形で決着した。今日のマスコミはもとよりTwitterFacebookはこの話題で持ち切りだろう。

普段はあまり日本のニュースを流さないChannel News Asiaも、さすがに昨晩と今朝はトップニュースは日本の参院選の結果であり、この結果が今後の日本の経済成長にどう影響するかを論じていた。屋上屋を重ねる事になるかもしれないが、私の意見も述べておこう。

民主党の惨敗は、もちろん金権問題・普天間基地問題などで、民主党のリーダーシップに国民が疑問を感じていた事が底流にある事は間違いない。しかしマスコミなどが指摘しているように、消費税増税を選挙直前に管首相が持ち出した事がそれらを加速した事も確かであろう。

多分菅首相は「民意は図りがたい」と嘆いている事だろう。確かに菅首相の嘆きはある意味で理解できる。彼は、鳩山前首相から自分に首相が替わり民主党の支持率がV字回復したことが、自分の人気とリーダーシップによるものだと考えたのだろう。

そこで、自分の更なるリーダーシップを国民にアピールしようとして、すでに国民からもほぼ既定の事実と思われており受け入れられやすいと考えられる消費税増税の話を持ち出したのだろう。

国民の聞きたくない事を議論の場に持ち出してその必要性を自分の職を賭して訴えるというのは、確かにリーダーシップを必要とする事だろう。しかし、それは十分に注意を要する事でもある。

まず第一に、国民は嫌な事を聞きたくない。消費税増税は必要かもしれないけれど出来たらやりたくないと思っていることだろう。それを首相になって早々持ち出すのは確かに時期尚早だったのかもしれない。

例えて言えば新任の教師が着任するなり、「このクラスの宿題の提出率が悪いと聞いているので、まずそれを改めなさい」というようなものだろう。生徒からすると「わかっちゃいるけど、新任のあんたが第一に言う事じゃないだろう」という反応が返ってくるだろう。しかもそれが、教師の人気投票の直前なのである。それは人気投票に影響するだろう。

人間は理性的動物であると同時に感情的動物でもある。選挙は人々の理性に訴えるものであるべきなのかもしれないが、実際にはかなりの部分を感情に訴えるところがある。特に日本ではその傾向が強い。しかしながら海外においても同じような傾向を持っている。

例えばオバマ大統領の「Change」は具体性に欠ける標語であるが、彼のスピーチの力と一体となってイラク戦争などで閉塞感を感じている米国民の感情に強く訴えかけたのだろう。また、選挙直前に不慮の事故で亡くなった候補者の奥さんが、素人にも関わらず夫の代わりに選挙戦に出て大勝するなどはよく聞く話である。

消費税増税の話をする際にはまず国民の受けるメリットを明確に説明する必要があったのだろう。その上でその手段として消費税増税にも触れるべきだったのだろう。消費税10%への増税を最初に持ち出すのは、借金取りの催促のように思われたのかもしれない。

しかしそれよりもさらに悪いのは、消費税増税の話の受けが国民に悪い事を知ると、早速その件をあいまいにしてしまったことだろう。いわゆる主張がぶれたのである。何よりもリーダーに求められるのは、主張の必要性を明確にすることとそれを一貫して主張することであろう。

政治家がそして彼の属する政党が一貫してその政党の政策を主張する。そして異なる政党が異なる政策を主張する。国民は自らの信念に基づいて自分の支持する政党に投票する。これが民主主義に基づく政党政治のあり方である。

政治家のそして政党の言う事がコロコロ変わるようでは政治家・政党とは言えないし、国民はそれを支持する気にならないであろう。そして何よりも国民の頭をよぎったのは前首相の鳩山さんの件であろう。

「沖縄の人たちに過度の負担をかけてはならない、沖縄の美しい自然を汚してはならない、最低でも県外移設」と主張していた普天間基地の移設問題を、結局当初案である沖縄の他の場所に移転するという案に逆戻りした鳩山さんの迷走ぶりは、国民に深い失望と不信感を与えた。しかも当初の主張が、感情に訴えた主張であっただけになおさらである。

その点から言うと菅首相の場合は、さらに悪いだろう。あまり国民が聞きたくないと考えていた案を聞かされたあげくに、ブーイングが起きると早速それを引っ込めてしまった訳だから。とてもそれではリーダーシップとは言えないだろう。

消費税10%増税を言い出したのなら、最後までその必要性を堂々と主張すべきであった。「国民の反応がこんなに悪いとは思わなかったから」引っ込めたというのでは単なる思いつきであり、沖縄のきれいな海を見て「この自然をけがさないためにも県外移転」を思ったという鳩山さんの単純な反応と変わらない。

それにしてもシンガポールから見ていて心配なのは日本の今後である。海外メディアの見方は、「日本の今後の進路が明確になっていない状況で、さらに国会運営が困難になると日本は今後大丈夫なのか。まあ日本の重要性は低下しているから世界情勢に与える影響は大きくないが」というものではあるまいか。かっての日本を考えたとき、極めて残念な状況ではある。