シンガポール通信ーコミュニケーションの国際会議におけるパネル

ロボカップとほぼ同時期にシンガポールでコミュニケーションに関する国際会議(ICA)が開かれ、その会議に併設されたパネルディスカッションに参加して来たのでその報告。

ICA自身は1000人以上が参加する大きな会議であるが、その1つのイベントとしてパネルが企画された。コミュニケーションに関する種々のテーマを会議参加者とパネルの企画側で一緒に議論しようというのがパネルの位置付けである。いくつかのパネルが並行して開催されたが、私たちはその1つとして「ノンバーバルコミュニケーション」をテーマとしてパネルを企画した。

左はICTのレジストレーション、右はロボカップレジストレーション。同時期にSUNTECコンベンションセンターで開催された。


ノンバーバルコミュニケーションは、本来は言葉以外の手段(身振りなど)によるコミュニケーションのことであるが、最近ではより広い意味として、感性をどう伝えるかという問題として取り上げられるようになっている。

私の研究所の中にCUTE Centerという研究センターがあり、慶応大学と共同でこの感性のコミュニケーションに取り組んでいる。CUTEはConnective Ubiquitous Technology for Embodimentsの略で、これだけ読むとなんだか小難しい研究をやっているように聞こえるが、本来は文字通りキュートをテーマとした研究を行おうというものであって、この正式の名前は無理やり後づけしたというのが正しいところである。

CUTE Centerでは所長のAdrian Cheokが中心となって、感性を伝える研究として、離れていても母親に抱かれている感覚を伝達できるパジャマ、味を電気的な手段で伝達する方法、体温によってデザインの代わる衣服、はたまたマウスと人間が仮想空間内で同じ大きさになって行うゲームなどのユニークな研究を行っている。

パネルでは、まず私が感性の伝達の先にある文化の伝達の研究(2月の京大の国際会議で行った講演と同じテーマ)をした後、AdrianがCUTE全体の説明を、そして後二人のパネリストが個々の研究の内容について紹介した。


左は私の発表風景、右はAdrian Cheokの発表風景。


パネリストの発表の後は会場の参加者を交えた議論を行うのが通常である。議論とはいっても、普通はありきたりな意見の交換で終わるのであるが、今回は少し違った展開になった。最初は「面白い研究だが、そのアイディアはどうして考えるのか」という参加者からのまあありきたりの質問から始まったのだが、そのうちに文化の話になってきた。

つまり、このような研究のアイディアはアジア人であるからこそ出てくるのじゃないかという話になってきた。しかもそこで私が「西欧では論理と感情を分離して考えて来たが、アジアではそれらを一体のものとして考えて来た、感性の伝達という問題に取り組むには、論理と感情を一体として取り扱う方法論の方が有利なのではないか」という意見を述べたので、議論が白熱してきた。

会場の欧米人の参加者から、「それは問題を単純化しすぎて考えている」とか「じゃあ、欧米人はこれまで感情を無視して来たというのか、そのようなことはない」とかの意見が出て来て、一時は会場が騒然となった。

論理と感情の取り扱いにおける西洋と東洋の違いを真剣に議論するというのは、実は私が意図していたところであるが、これまでなかなか白熱した議論になる機会がなかった。例えば2月の京大での国際会議では欧米人の数が少なかった事もあり、彼等も遠慮していたのか突っ込んだ議論にはならなかった。

その意味では私としてはなかなか楽しめるパネルであった。ただ私としても考えさせさせられる事も多かった。反対意見をまとめて、さらに私の理解の範囲での補足も入れると以下のようになるのではないだろうか。「西洋人も豊かな感情を持っており、それを決して軽視したり無視して来たのではない。むしろ感情と論理を分離して考える事により、それぞれに関してより深く分析的に考えるようになったのである。逆に東洋ではそれを常に一体化して考えて来たため、深く分析的に考える事をしてこなかったのではないか。」

たしかにこれは真理をついた考え方であり、西洋や東洋の哲学・歴史を考える場合に常に心に留めておかねばならない考え方であろう。


最後にパネリスト全員で記念写真。