シンガポール通信ーソウルの印象

先月、ボストンで開かれたバーチャルリアリティ国際会議に3月20日〜21日と参加した後(この会議の話しはまた別途報告したい)、3月24日〜26日と韓国ソウルを訪問したので、その印象などを報告したい。

今回の訪問は、ある大規模な展示会の契約業者の選定の評価委員会に参加する事が目的であった。各業者から提示される展示会の会場案のプレゼンを聞いてその採点を行い、最終的に1社の契約業者を選定する訳である。その展示会は、未来技術の展示と同時に、それらの技術とアートや文化との融合を実現することに主眼が置かれている。私が評価委員として招待されたのは、かってATRでアートと技術の境界領域の研究を行った経験があることが評価されたのだと思われる。

それだけだと何の事もないのであるが、驚かされたのは評価委員会のセキュリティの厳しさである。ホテルに着くと、まず携帯電話を取り上げられた。外部との連絡が出来ないようにとの事だそうである。したがって、ホテルの部屋の電話も不通になっていた。またインターネットへのアクセスも出来ない設定になっていた。

さらには、評価委員会の2日間はホテルからの外出を禁じられた。着いたのが夜遅くでおなかも減っていたので、外で食事をしようと考えていたのだが、だめだとの事である。しかたがないので、ホテルのバーでつまみを食べて食事の代わりとせざるを得なかった。評価委員はホテルの同じフロアに泊まっていたのだが、極めつけはエレベーターの前に警備員が立っており、出入りする人をチェックしていた事である。

たぶん、選定の対象となる業者が事前に選定委員に接触しその業者に有利となる採点を依頼することを防ぐ事が目的なのだろう。それにしても、このセキュリティの厳しきは、私にとっては初めての経験であった事もあり、驚きであると共にここまでする必要があるのかという思いを抱かせた。

選定委員が選定の対象となる業者・人などと選定委員会の前に接触してはならない事は当然のモラルである。通常は、不文律としてそのモラルは守られるものと考え、特に厳しいセキュリティチェックを行うことはないのが普通だと思っていた。逆に考えると、韓国ではそのような習慣がまだ横行していると勘ぐる事も出来る。

もっとも、建設業者などが入札の前に談合することは、日本でもつい最近まではおおっぴらに行われていた。それが厳しく糾弾されるようになったのはここ10年ぐらい前からだろう。まああまり韓国だけ責める訳にはいかないのかもしれない。

しかしインターネットが使えないというのは別の問題である。最近の研究者やビジネスマンにとってインターネットは生命線であり、特に私のようにマネジメントが主業務であると、メールで大半の仕事をこなしている事になる。したがって、インターネットが使えないというのは致命的である。

これは大変だという事で、委員会の主催者と掛け合って、最終的には昼食後・夕食後のそれぞれ30分間はインターネットアクセスを認めてもらった。しかしこれも特定の部屋のみでの使用が要求され、やはり警備員が入り口でチエックしている。

それにしても夕食後ネットも電話も使えないホテルの部屋で時間を過ごすというのは、何とも手持ち無沙汰である。旅行に出かけるときには通常文庫本を2、3冊スーツケースに入れておき、暇なときに読もうと思っているのだが、まず読む事はない。しかし今回は、おかげで文庫本を読んで就寝までの時間を過ごすという経験をさせてもらった。

さて、そういいながらも評価委員会は無事終了した。それと共に、携帯電話も返してもらったし、ホテルの部屋で確認してみるとインターネットも電話もつながるようになっている。現金なものであるが、同時に主催者側の運営がしっかりしている事も改めて感じた。

(続く)