シンガポール通信ーカルチュラルコンピューティングに関するシンポジウム1

3月18日に品川にある京大東京オフィスで「カルチュラルコンピューティング」と題したシンポジウムが開催され、パネリストとして参加して来たのでその報告。

これは2月に京大で行われた文化とコンピュータに関する国際会議の続編で、パネリストなどを一部変更すると共に、今回は東京の人々に文化をコンピュータで扱うという考え方を広めると共に人々の意見を聞こうというものである。プログラムは以下の通りである。


基調講演:「文化とコンピュータ」 
    長尾 真(国立国会図書館長)
講演:「カルチュラルコンピューティング:文化・無意識・ソフトウェアの創造力」
    土佐尚子(京都大学学術情報メディアセンター教授)
パネル:「日本文化ソフトのグローバルコミュニケーション創造力」
<パネリスト>
    徳岡 邦夫(京都吉兆嵐山本店総料理長
    改田 哲也(トヨタ自動車 企業価値創造室長)
    鎌田 東二(京都大学こころの未来研究センター教授・フリーランス神主)
    中津 良平
<コメンテーター>
    美濃 導彦(京都大学学術情報メディアセンター長)
    黒橋 禎夫(京都大学情報学研究科教授)
    中村 裕一(京都大学学術情報メディアセンター教授)


長尾先生の講演は文化とは何か、それをコンピュータで扱うということはどういくことか、そしてそれは可能かという内容であり、本シンポジウム全体のテーマを扱ったものであった。文化がデリケートなものであり、それをコンピュータで扱うには文化に対する深い理解が必要である事、それと共に、20世紀の科学が「知」を扱ったものであるとすると21世紀の科学は「情」を扱うべきものであり、その意味ではカルチュラルコンピューティングは必然的な方向であるという内容であった。長尾先生自身が書や陶芸という文化的趣味をたしなまれるだけあって、説得力に富んだ内容であった。


長尾先生の講演風景


土佐先生の講演は、文化をコンピュータで扱うカルチュラルコンピュータの具体的な方法論に関するものであった。特に日本文化を対象として取り上げ、日本文化の中でも複雑な意味を持っておりコンピュータでの取り扱いが困難と思われる「わび」や「さび」をとりあげ、それらがその背後に型やタイプ、さらにはモデルを含んでおり、それを取り出す事により、わびやさびを単に文化資産をディジタル化してそれを再現するだけでなく、インタラクティブな形でコンピュータ上で表現可能である事を示す講演であった。


土佐先生の講演風景


また、その例として禅の世界をインタラクティブシステムとして表現したZENetic Computerシステムを会場に持ち込み、休み時間を利用して参加者に実際にインタラクションの体験をしてもらうという試みが行われた。

文化をコンピュータで取り扱うというのは新しい試みであるが、この2つの講演でその概要や、具体的な方法論が提示されたといえるだろう。

京大東京オフィスは品川インターシティの27階にあり、窓からは全く生まれ変わったと言っていい高層ビルの建ち並ぶ品川駅の東側や周辺のエリアが一望できるが、このような近代的な風景の中でIT関係の研究者を中心として文化に関する講演、議論が行われるというのは、聴講者にとっても新しい刺激的な体験であったのではないだろうか。


シンポジウムの行われた品川インターシティ


パネルの内容に関しては続きで述べたい。