シンガポール通信ー麻雀2

麻雀の話は書き始めるときりがないので(そのような人は私の他にも多いだろう)、またおいおい書くとして、今回は前回に続いて麻雀の魅力について少し述べてみたい。

麻雀の魅力は前回も述べたように人と人の間の駆け引きが大きな意味を持つという事である。そのために上級者になればなるほど駆け引きの上手さが要求される。そのためいわゆる「ひっかけ」と呼ばれる筋で待って相手の振込を誘ったり、あえて確率の低い待ちでリーチをかけて相手の振込をさそうなどの手段がとられる事が多くなる。

これらの待ちは初心者からすると常道ではないことになり、「きたない待ち」などと呼ばれる事になる。そのため上級者にはどうしても王道を進む人という感じよりも罠を仕掛けて相手を陥れる人という感じを持ってしまう。これが麻雀が持つ暗いイメージの側面である事は前回も述べた。

しかしこれはビジネスも含めいずれの世界にも大なり小なり存在している事であり、麻雀の世界特有の事ではない。むしろ駆け引きが重要な意味を持っている事は実世界と麻雀の世界の間に密接な関係がある事を示している。

麻雀は人の性格が良く出るゲームであると言われている。それは確かである。麻雀で駆け引きが大きな意味を持つ事は、別の言い方をすると麻雀はビジネスの世界をきわめて単純化した形でゲームとして再現しているとも言える。日常のビジネスの世界では、種々のビジネス上のルールやこれまでの経験などに基づいて、直接自分の性格をそのまま出す事はまずい事は誰も知っており、そのようなことをしない。

ところが、ゲームとなると気が緩むのだろう、もしくは通常のビジネスでのストレスを忘れたいのだろう、本来の自分の性格が出やすくなる。気が短かくてついていないとすぐ投げ出す人、じっくりとチャンスを待って大きな手を狙う人、ともかく小さくても上がりを狙う人など、本当に人それぞれである。

いずれにしても重要なのは、麻雀は4人で行うゲームであるという事である。ゲームとは、カイヨワもいっているように、ある限られた時間と場所を設定してそこで仮想の状況を設定して楽しむものである。したがって、麻雀の基本ルールを守る事はもちろんであるが、4人が協調して楽しめる場を作り上げて行く事が必要なのである。

例えば、終局に近づいているとしよう。トップ目の人は当然安くていいから早く上がりトップを確定したいと考えるから、自分の風牌を鳴くなどしてそのような行動に出るだろう。そのとき残りの3人はどうするか。1つはトップ目を上がらせまいとして協調作戦をとる。たとえば、さらに彼が鳴きそうな牌を捨てないようにする。この点では3人は協調作業を行う必要がある訳である。

と同時に3人はお互いの間では、いずれが高い手で上がり上位に行くかを競い合う競争を行う訳である。競争と協調というのはビジネスの世界では良く言われるキーワードであるが、抽象的であり、ビジネスの場でどのような行為をすべきなのかは多くの人はよくわかっていない。

しかしながら、麻雀の場面ではこのような状況はごくごく当たり前に生じる。このような場面でどのように行動するかで、その人の性格がわかってしまう。どのような牌を捨てるかでその人が何を考えているかはわかるものである。たとえ無言でゲームを進めていても、4人の気持ちがぴったりと合って上のような状況が実現されている時は、気持ちが通じ合っているといううれしさと、場が作り上げるきわめて昂揚した雰囲気を全員が感じとる事が出来る。このような場合こそ麻雀の醍醐味が感じられる時である。

このような場の雰囲気の読み取れない人がいる。1人がトップ目で走っているという上のような状況の時、後の3人はトップ目を上がらせまいとして協調作業を行うべきであるが、全くそれを無視して千点で軽く上がってしまい、トップを確定させてしまう人が往々にしている。もちろんツモ上がりをしてしまえばしかたがないのであるが、その時は「安い上がりでトップを確定させてすみません」とでも言う必要がある。

ところがその人が上がって何が悪いのかという無邪気な顔をしていると、後の2人は軽く舌打ちをして「こいつはわかっていないな」ということになるわけである。もちろんトップを確定した人も同じであるが、彼の場合はニヤリとして「もうかったけど、こいつわかってないな」ということになるわけである。

私自身も会社の上司、同僚、部下と麻雀をした機会はそれこそ数えきれないほどあるし、本人の性格がはっきり出てしまう場面には何度も遭遇した。もちろんそれだけで直接部下の能力を判断しはしなかったが、査定のときにその結果が影響した事も事実である。その意味では、麻雀を現実とは関係ない単なるゲームと考えている人は、考え直した方が良いのかも知れない。特に上司と麻雀をする場合は気をつけた方がいい。