シンガポール通信ー麻雀

前回、ギャンブルの1つの例として麻雀に少し触れたので、今回は麻雀について。

麻雀は中国から輸入されたゲーム(&ギャンブル)であり、その輸入時期は意外に新しく明治時代それも明治末期とされている。本来は中国ルールでプレイされていたのであろうが、日本で新しいルールが導入されることによって、本来の中国麻雀と現在の日本の麻雀は全く別のものになっているといえる。

あがるための役の違い、点数の違いなどもあるが、なんといっても大きな違いはリーチ、ドラ、そして振りテンというルールの導入であろう。中でも最も大きな意味を持つのはリーチというルールの導入である。基本的には日本麻雀では役がないと他の人の捨てた牌であたれないが、リーチは自分の手を変えない事を宣言する代わりに役が1つ上がり、 他の人の捨てた牌であたることが可能になるというルールである。さらにこのルールの付随ルールとしてドラが増える(いわゆる裏ドラ)という特典がある。

ドラは、それを持っている数が1つ増えるたびに自分の点数が倍になるのでこれもまた麻雀のギャンブル性を増やすのに貢献している要素である。しかしそれ以上にリーチの役割は大きい。例えば、ドラがたくさんあり点数としては高いが役がない場合に、リーチをかけてあがる事が可能になる。また、相手が高い手作りをしていて、それに対して自分の手が良くない場合でも、リーチをかける事により相手の高い手を軽く蹴る事が可能になる。

親が親マンの高い手で待っているときに、リーチをかけられ安い手であがられたときの悔しさは、麻雀好きの人なら誰でも知っているだろう。しかしもちろんリーチをかける方にはそれなりのリスクがある。自分の手を変えないと宣言した以上、相手に振り込む危険性のある牌を持って来た場合も、捨てる必要がある。黙って降りていた方が良い場合も多い訳である。つまりリーチはハイリスク・ハイリターン(必ずしも常にそうだという訳ではないが)のルールなのである。

そしてここに、麻雀が単に運に基づいたゲームや高い手作りを楽しむゲームを超えて、プレーヤー同士の駆け引きが重要な意味を持っているという側面があるのである。

麻雀で基本的に運が大きな意味を持つ事はいうまでもない。ツイている時は、何もしなくても高い手を上がれてしまう。麻雀はこんなに簡単なゲームだったのかと思ってしまう事もある。しかし反対にツイていない時は何をやってもうまく行かない。手がバラバラで中々手作りが出来ない。そうこうしているうちに相手が高い手で簡単に上がってしまったりする。またやっとテンパイにたどり着き勢い込んでリーチをかけると相手から追いかけリーチをされ、そこに一発で振り込むなどは、これも麻雀の好きな人なら何度も経験しているだろう。

いわゆるビギナーズラックといわれるように、初心者でもツイていると百戦錬磨の強者に勝ってしまう事があるのも麻雀である。初心者と麻雀をして相手に勝たれてしまい、「なんだ、皆さん強いと聞いていたのにその程度ですか」などと言われた経験は、皆さん持っておられるだろう。

そのような場合は、 百戦錬磨の強者であれば、何だこの野郎と思ってもそんな事はおくびにも出さすニコニコ笑いながら「恐れ入りました、君は強いね」などと言って、次回からはカモにするというのが定番の対応である。このことは、確かに運の持つ意味は大きいが、それだけではないということである。

また、確かに麻雀には手作りの楽しさもある。もちろんその極めつけは役満をめざすということであるが、そうではなくても純チャンチンイツをめざしてそれで上がった時の快感は大きい。もっとも大きな手はそれが完成する確率が少ないので、確率の高さをとるか美しい手を作るといういわば美学をとるかという選択をプレーヤーはする必要がある。ある程度場数を踏むと自分が作っているあるいは作ろうとしている手の確率がわかってくるので、 役満をめざすというきわめて低確率のリスクはとらなくなる。

一方で初心者はそんなことはおかまいなしに役満作りをめざしたがるので、良く言われるように初心者の方が役満を作る確率が多いのである。そういえば私も初心者の頃はよく大三元や国士等の役満を上がったものであるが、最近はとんと役満をあがった事はない。

しかし運や手作りと共に、そしてそれを超えて麻雀は駆け引きのゲームなのである。例えば高い手を作っていると見せかけて相手の注意を引きつけたり、時には相手をおろしたりする。チンイツなどの高い手に見せかけて相手の振込を誘ったり、手がバラバラの場合にドラをポンして相手の注意を引きつけるなどは 中上級者の常道手段である。このあたりは、ポーカーに似たところがある。

駆け引きは日常生活や仕事の上でもある程度は必要である。駆け引きの全く出来ない人は真っ正直な人だとは思われても中々実社会では成功できない。これは麻雀でも同様である。相手のリーチにおかまいなしに向かって行ったり、逆に常に降りていたりすると、負け組の常連になってしまう。

ところがあまりにも駆け引きに長けた人は、うさん臭く思われたり疎まれたりする。麻雀では駆け引きが大きな要素を占めるため、中級者以上の麻雀ではどうしても駆け引きの勝負になりがちである。麻雀の強い人がなんとなく駆け引きにだけたけた人と思われたり、常人から疎んじられたりするのは、そこに理由があるだろう。

麻雀というゲーム全体が持っている何となく暗い、裏の世界という雰囲気はそこに根ざしているのだろう。麻雀のコミックも他のコミックに比較するとなんとなく暗い雰囲気をかもし出しており、コンビニなどでも隅っこの方に置かれているのもそれを反映しているのだろう。

私の愛読コミック「近代麻雀」,さすがにシンガポール紀伊国屋にはないので最近はご無沙汰気味