シンガポール通信ー文化とコンピューティング国際会議

2月は大変忙しい月であっという間に過ぎてしまった感がある。このブログも先週はご無沙汰してしまった。今日から再開したい。


先週は京都大学で行われていた第一回文化とコンピューティング国際会議に出席していたので、その報告を。

コンピュータで扱ってきたのは、いわゆる論理的な情報が中心であって、感情・感性に関わる情報をどう扱うかはやっと研究者や技術者が興味を持ち始めたテーマである。中でも文化は、世界各地の風土、そこに住んでいる人種、さらには過去の長い歴史などの集積したものであり、いいかえればきわめて深いレベルの感情・感性情報を含んでいる。

それらをコンピュータでどう扱うかはきわめて重要な問題であると共に困難な問題でもある。それを現時点でテーマとして取り上げる事は、時期早尚という考え方もあると思われる。一方で、人工知能などの人間の知性をコンピュータでとり扱おうという学問がある種の壁に直面しているのは、人間の知性が文化と深く関わっており、それを文化と切り離して考えようとしてきた事に問題の根源があるということもいえる。

その意味では、まだまだこれからの分野ではあるはといえ、現時点で文化とコンピュータの関係を議論する事は意味がある事だと考えられる。さすがにこの辺りは京都大学かと思われるが、京都大学の情報学研究科の石田先生が中心となって第一回文化とコンピューティング国際会議が2月22、23日に京都大学で開催された。

初日に基調講演として、国立図書館長の長尾真先生が、文化とコンピュータの関係そして国立図書館が果たすべき役割について講演された。長尾先生はずっと情報処理の研究分野で活躍されてこられた方であるが、実家が神主を職業にされて来た家柄でもあり、文化には造詣が深い。ご自身も書道や陶芸などの文化的な趣味を持っておられる方である。


京都大学時計台

文化とコンピューティング国際会議の看板


さて、私が関係していたのは、2日目の「カルチュラル・コンピューティング イベント」というセッションである。まず、京都大学の土佐先生と私がカルチュラル・コンピューティングに関するジョイントトークを行った。土佐先生は日本文化を対象として、日本文化の底にモデルや型が見いだせるので、それを用いることによって日本文化をコンピュータで扱う事の可能性を示唆された。それを受けて私は、日本文化と海外の文化に共通点が多い事を指摘し、日本文化と同様のモデル・型が海外の文化にも見いだせるのではないか、とすれば文化相互の翻訳や、文化の進展のシミュレーションが可能ではないかとの意見を述べた。


土佐先生の講演。残念ながら私の講演風景は写真を撮ってもらうのを忘れてしまった


それに続いて特別企画パネル「京都の職人・神主とのカルチュラルコンピューティング」が開催された。これは上のジョイントトークを受けて、特に京都の文化に焦点を当てて、その特殊性と共に海外文化との共通性を議論しようというものである。参加者は以下の人たちである。
パネリスト
 徳岡邦夫氏(京都吉兆嵐山本店三代目総料理長
 宇佐美 直治氏(東洋絵画書籍修復)
 鎌田東二氏(京都大学心の未来センター教授・フリーランス神主)
 勝山龍一氏(株式会社 本つづれ勝山)
 山崎 順平氏(唐紙:山崎商店)
コメンテーター
 黒橋 禎夫氏(京都大学情報学研究科教授)
 小山田 耕二氏(京都大学高等教育研究開発推進センター教授)
 中津 良平(シンガポール国立大学インタラクティブメディア研究所)
司会:
 土佐 尚子氏(メディアアーティスト・京都大学学術情報メディアセンター教授)


パネルは鎌田さんの吹くホラ貝で開催さらにはお開き。場を清めるためとのことで会場の人たちもびっくり


基本的には情報関連の国際会議なので、コメンテーターは技術系の人たちであるが、面白いのはパネリストが純粋に文化に関わる人たちである事である。この種の組み合わせはこれまで国際会議などでは全くなかったのではあるまいか。議論の詳細は別に紹介したいが、大変私自身楽しめるパネルであった。