シンガポール通信ーカラオケとシンガポール

前回のブログで、欧米と比較して日本のカラオケに独特のシステムとして、カラオケボックスの存在を書いた。バーなどの開かれた空間で、異なるグループや個人同士がカラオケで歌う事を共有し合うのが当初のカラオケであったが、その後日本では、グループやカップルが個室を占有してカラオケを楽しむカラオケボックスが普及した。

欧米でもカラオケボックスがない訳ではないが、私の知る限りでは日本人が経営するレストランやバーに付属しており、利用するのも日本人がほとんどではないだろうか。カラオケという、他人の前で歌を歌うという優れた自己表現のメディアを開発しておきながら、再びその自己表現機能を仲間やカップルという閉じた空間に閉じ込めてしまうのは何とも惜しいのだが、これも日本人的特性かもしれない。ひるがえって、ブログ、SNSツイッターなども本来一般の人々に開かれたメディアであるが、日本における使われ方は仲間内の場合が多いのかもしれない。

ところが、アジアに限定すると、カラオケボックスというのはかなり広く普及している方式のようである。12月に国際会議に招待されタイ北部の大学を訪れた際も、宿泊したホテルの地下にカラオケボックスがあった。会議が終わった後のパーティの2次会として、会議開催者の先方の大学の先生と学生達数名とカラオケに行こうという事になったが、皆がよく行くというカラオケボックスが満員なので、結局私の泊まっているホテルの地下のカラオケボックスに行く事となった。

残念ながら日本の歌がないので私は飲んでいるだけであったが、学生達は次は自分だ自分だといって大騒ぎである。彼等の歌う歌は、いわゆる日本で言えばJポップに相当するのか、軽いリズムの米国のポップ調の歌が多い。一方大学の先生も負けじとばかり歌うのだが、こちらはどちらかというとタイの伝統的なリズムの感じられる歌である。日本で言えば演歌にあたるのかもしれない。日本同様、歌の世代差というのが出ていて興味深かった。

さていよいよシンガポールのカラオケであるが、たまたま知り合いとSUNTEC Convention Centerの近くの日本料理店で食事をした後聞いてみると、近くにカラオケボックスがあるという。行ってみるとなるほど日本のカラオケボックスと全く良く似た作りとシスムである。

受付で申し込むと利用人数、利用時間を聞かれ、適切なボックスが空いているとそこに案内される。カラオケボックス全体は、2、3人から10人以上の各種の大きさのグループに対応した種々の個室にわかれている。いずれの部屋からも若者達の歌声がもれ聞こえてくる。ガラス戸から覗いてみると、いずれも若者達で中年のおじさん達のグループは見かけない。サラリーマン同士でカラオケボックスに出かけるというのは日本に特有なのだろうか。

ボックス内に入ると、部屋の作りも日本と全く同様である。大きなテーブルとそれをコの字型に囲んだソファ、そして正面に大画面のカラオケシステムというのは日本もシンガポールも(そしてタイのカラオケボックスも)同様である。ドリンク一杯のサービスがついているのも日本と同様である。カラオケシステムは日本と比較すると少し古いかなと思わせるが、通信カラオケであり、機能的には似たものである。

コントローラがあって、基本的には歌手名、曲名などで望みの局を選び決定するとしばらくして曲が流れてくるという仕組みになっている。さすがに多国籍国家シンガポールらしく、英語の歌を中心として、中国、マレーシア、タイ、韓国などの歌がそろっている。もちろん日本の歌もある。最近の日本のJポップ事情には詳しくないので、どの程度新しいのかは断定できないが、かなり新しい曲も含まれているようである。

とはいいながら、私はしばらく(15年以上)カラオケをやっていなかった事もあるので、新しい曲は苦手である。もっぱら演歌という事で、森進一、五木ひろし、女性では八代亜紀石川さゆり、などが私の好んで歌う歌手である。これらの歌手の歌を検索してみると、さすがにすべてそろっている訳ではないが、代表的な歌はそろっている。というわけで、シンガポールカラオケボックスでも日本と同じ感覚で楽しむ事が出来た。

ところで15年前と現在では若者向きの歌は全く異なっていると思われるが(15年前というのはやっとJポップが認知され始めた頃と思われる)、演歌は新しいヒット曲というのはあるのだろうか。曲名リストを見る限りは、15年前と同じ曲が並んでいるようである。もちろん私のように長いブランクのあるものにとっては、昔と同じ曲が並んでいるというのは喜ぶべき事かもしれない。

しかし、日本の歌謡界においては由々しき時代ではあるまいか。紅白はたまにしか見ないが、演歌の大御所達は昔のヒット曲を歌っているだけのように見える。最近の話題としては黒人演歌歌手ジェロの出現程度なのではないだろうか。かっては、不況期には演歌がはやるといわれた。2008年秋に始まる大不況にも関わらず演歌がはやっているという話は聞かない。日本人のメンタリティが変わりつつあるのだろうか。


黒人演歌歌手ジェロ(Wikipediaの写真を使わせてもらいました)