シンガポール通信ーシンガポールの景気

昨年秋以来の世界的な大不況も底を打って回復しつつあるということらしいが、シンガポールはどうであろうか。

シンガポールは人口約500万人の小国であり、産業に関しては何よりも貿易と観光に依存するところが大きい国である。このことは、シンガポールが海外の経済状況が直接影響しやすい国であることを意味している。同時に、シンガポールは政府による統制が強い国であるため、このような不況の場合には政府の対応が大きな意味を持ってくる。

テレビを見ていると、不景気で職を失う人の増加やそれに対する政府の援助策などを報じている。また、観光客や輸出入の減少を報じている。しかし総じて日本のマスコミの報道などに比較すると楽観的であり、2010年には再び成長路線に乗るのではという報道がされている。これも政府が強力にそのような政策を取っているからであると理解することが出来る。

それでは、シンガポールの景気を我々のレベルで直接肌に感じることは出来ないだろうか。私自身は以下のような経験に基づき、シンガポールの経済は一時期の不景気からかなり回復しつつあるという感覚を感じている。

1つは港の風景である。シンガポールは貿易立国なので、港にはコンテナをおく広大なスペースがあり、さらにそれらの積み上げ、積み降ろし、移動のための数多くのクレーンが林立している。また、岸壁には貨物船が接岸して、クレーンが忙しそうにコンテナの積み上げや積み降ろしを行っている。沖には、順番待ち貨物船が何台も停泊している。

これが見慣れたシンガポール港の風景である。今年1月〜3月にかけての景気の最も悪い時期には、積まれているコンテナの数こそそれほど変わらなかったものの、沖合に停泊している貨物船の数は明らかに少なくなっていた。また、接岸している貨物船がいない場合も見かけるようになった。明らかに貿易の総額が減少しているのが見て取れた。

最近、タクシーで港の側を通るたびに注意して見ているが、必ず何隻かの貨物船が接岸しており、クレーンが忙しそうに動いているのを見かけるようになった。沖合の貨物船の数も増えて来ているようである。景気は回復しつつあるのだなということが実感できる。

もう1つはタクシーである。シンガポールはタクシーの料金が比較的安いこともあって、タクシーを利用する人が多い。タクシーの台数もそれに見合ってかなり多いのであるが、時間によってはタクシーを捕まえるのが難しいことも多い。

特に、景気が悪くなる以前は、クラークキーなどの盛り場では夜タクシーを捕まえるのは至難の業であった。シンガポールの市内では、基本的にはタクシースタンド以外の場所でタクシーに乗ることは出来ないので、人々はタクシースタンドに行列を作ってタクシーを待っている。かっては盛り場では1時間待ちというのは通常であった。もちろん電話でタクシーを呼ぶことは出来るのであるが、コールセンターでもタクシーが捕まらなくて、結局辛抱強く待つという経験も何度かした。

ところが、不景気がシンガポールを襲ってから状況が変わった。タクシーを捕まえるのが容易になったのである。今年の1月〜3月の頃は、今度は逆に以前は見かけなかった客待ちのタクシーの列というのを見かけるようになった。これはいかにも景気の悪さを直接示してくれる指標であると納得したものである。

今年の夏以降再び状況が変わり始めた。タクシーを捕まえるのが再び難しくなり始めたのである。以前と同じというところまでは回復していないが、再び、夜の盛り場ではタクシースタンドでの人々の長蛇の列を見かけるようになった。景気が回復しつつあるのであるから喜ぶべきなのであろうが、私個人としては、今年始めのいつでもタクシーが捕まえられるという時が懐かしい気持ちもある。