シンガポール通信-再び自動運転を考える3

自動運転車の開発に関する最近のニュースを見て、完全自動運転車の実現はまだまだ将来のことなのにあたか、も明日にでもできるかのような報道の仕方が問題であると書いた。それでは次に、完全自動運転の実現は可能なのだろうかそれとも不可能なのだろうかという問題を考えてみよう。

可能か不可能かという観点からすると、「完全自動運転車の実現は可能である」と自信を持って言える。問題はそれがいつ頃かということであろう。完全自動運転車は一種のロボットである。ロボット工学において、ロボットが出発地点から目的地点まで障害物を避けながらいかにして到達するかという問題は中心的な研究テーマであって、これまで数多くの研究が行われてきた。ロボット研究者にとってはおなじみの研究テーマである。どの研究者に聞いてみても、この問題は基本的には解決可能な問題であると言うだろう。

特に最近は、GPSによる自分の位置の正確な把握、赤外線レーザーなどのセンサーによる障害物の検知、カメラと画像処理による道路マークや交通標識さらにはそれらを含めた景観の認識、などの技術が進んできたため、これらを用いて車を道路に沿って走らせたり障害物がある場合は止まるなどの基本的な車のコントロールは、それほど問題なくできるようになってきている。

前に障害物がある場合はそれを検知して自動的に停止する技術は多くの車に取り入れられてきており、車の基本的な機能になりつつある。次の段階として、最近日産のセレナに高速道路において車線に沿いながら一定速度もしくは前車に追従する形で自動運転する機能が搭載されたが、これはヨーロッパの高級車にも搭載されているようであり、かなり確立されてきた技術であるといえよう。

次の段階として高速道路で自動的に車線を変えたり前の車を追い越したりする技術の研究開発が行われており、これもここ数年以内に実際の車に搭載されると予測される。高速道路における車の走行に関しては、道路マークが明確であることや直線や緩やかな曲線のコースが多いことから、レーンに沿って車を走らせることが比較的容易である。また信号機がないこと、基本的には歩行者などの障害物がないことなどから、比較的簡単な環境にあると考えていいだろう。

したがって高速道路における自動走行に関しては、先ほど日産のセレナの例を挙げたように自動運転技術の導入がスムースに進むと考えられる。とはいいながら、入り口から高速道路への進入や高速道路から出口への退出、パーキングエリアへの出入りなどは当面は手動で行う必要があるだろう。あくまで高速道路に入ってからの走行が自動で行える日が来るのは近いということだろう。

国内外の自動車メーカーが当面の自動運転の実用化をめざして研究開発を行っているのに対して、グーグルを始め前回紹介した米国のヌートノミーやウーバーさらには日本のロボットタクシーがめざしているのは一般の公道における自動運転である。原理的にはこれも実現可能であることは間違いない。ただし、高速道路に比較して一般の公道は環境条件が極めて多様であるため、技術の開発に時間を要するだろう。

自動運転には以下の4段階のレベルがある。
レベル0:自動運転機能なし。常時ドライバーがすべての操作を行う必要がある。
レベル1:加速・操舵・制動のいずれかをシステムが行う。自動ブレーキなど。
レベル2:加速・操舵・制動のうち複数の操作をシステムが行う。ドライバーは常時運転状況を監視操作する必要がある。
レベル3:加速・操舵・制動のすべてをシステムが行う。緊急時などシステムが要請した時のみドライバーが対応する。
レベル4:完全自動運転。ドライバー不要。

現在実用化がめざされているのはレベル2である。日産セレナに搭載されている自動運転機能と呼ばれているものも、ドライバーが常時ハンドルに手を添えている必要があるという意味で、まだレベル2の段階である。ネット上のニュースなどを見ると、すでにレベル3が実用化されているかのように書かれているものがあるが、これは全くの誤解である。
レベル3であれば、自動運転を開始すればドライバーはハンドルから手を離して、例えば座席を回転させて後部座席の人と雑談を楽しむこともできる程度の自動運転機能を備えている必要がある。日産セレナに搭載されている機能はそのようなレベルには全く達していないと考えられる。

したがって各社が2020年あたりの実用化をめざして開発競争をしているのはレベル3であると考えるべきである。レベル4の実用化はかなり先になると考えるべきである。