シンガポール通信−イスラム過激派のテロにどう立ち向かうべきか2

前回イスラム過激派のテロが起きる原因を上げたが、今回はそれではイスラム国などによるテロを抑えるにはどうすればいいかを考えてみよう。

最も単純な方法は、オバマ大統領などが言うように武力によってイスラム過激派を殲滅する事であるが、これは現在のところ出来ていないしまたそれを行う事も困難であろう。それはテロを引き起こす過激な組織がイスラム諸国の一般住民から隔離された独立した集団ではなくて一般住民とのつながりを持ち、一般住民のある部分には支持されている集団だからである。

一般住民の中に根を下ろした戦闘集団を武力で制圧する事の困難さは、既にベトナム戦争などで米国を始めとして私たちは学んでいる。何よりも過去に米軍が中心となって別の過激テロ組織であるアルカイダの殲滅を図り、リーダーのビンラディンを殺害するなどの成果を上げたが、結局の所アルカイダはまだ生き残っており別の人物をリーダーとして活動を続けているではないか。

すなわち、イスラム国にせよアルカイダにせよ特定のリーダーのリーダーシップによって存続している組織ではなくて、リーダーが殺されても代わりを立てることによって存続可能な組織なのである。そのような組織を殲滅する事が極めて困難である事は歴史が教えている。

私は、イスラム国やアルカイダなどのイスラム過激派によるテロ行為を終焉させるためには、結局の所イスラム教がその内部から変革する以外にないのではないかと考えている。イスラム教の内部からの変革とは何か。それはイスラム教が未だに固持している政教一致の精神とイスラム法を日々の生活で厳格に守る事を要求する戒律を、捨て去るとまでは言わなくてもより柔軟なものに変える事である。

これはイスラム教の根幹ではないか、それを変革する事は不可能ではないかとイスラム教に詳しい人にはいわれるであろう。しかし長期的に見た時に、それなくしてイスラム教とそれに基づいて成り立っているイスラム諸国が世界の中で勢力を維持して行く事は困難なのではないだろうか。

そしてそれを何よりも知っているのは当のイスラム国やアルカイダなどの過激集団のリーダー達ではないだろうか。なぜ彼等がテロを行うのか。それはこのブログでも何度も書いた事であるが、イスラム教の戒律を厳格に守るという姿勢と欧米の科学技術を取り入れイスラム社会を近代化しようとする姿勢の間に根本的な相克があるからである。

自分たちの精神の拠り所であるイスラム教の教義は守りたい、しかしそうすると古来からの生活様式を守る事が要求され、欧米の科学技術を取り入れてイスラム社会を近代化することができない。そのためイスラム諸国が欧米諸国やそれに追従するアジア諸国などに科学技術・生活様式・生活の豊かさなどでおいていかれる。

このような矛盾に悩んだあげくに、イスラム過激派は欧米憎しという感情をつのらせ欧米に対する無差別テロをしかけるのであろう。さらには欧米の科学技術・生活様式を無批判に取り入れイスラム教の戒律に反する生活を送っている多くのイスラム教の同胞を裏切り者と考えこれもまたテロの対象とするのであろう。

しかし残念ながら欧米によってもたらされた近代科学とその成果である科学技術を取り入れる事なしに世界の中で生き延びて行く事は不可能である。それを端的に示しているのがイスラム過激派自身も欧米の科学技術の成果である最新の武器を装備していることである。もし欧米の科学技術を拒否するならば、武器も自分たちの伝統に基づいたものを使うべきであろう。しかしもちろん、それで欧米の武力に立ち向かうことができない事は自明である。

ここにイスラム過激派が内部に持つ大いなる矛盾があるのではないか。逆にそれを自覚しているからこそより過激な行動に走るのだという見方も出来る。つまりイスラム教の教義を守ろうとすれば欧米の科学技術の最新の成果を取り入れてはならないが、しかし一方ではそれなくしては欧米に対抗して行けない。どうすればいいか。

そしてそのあげくに無差別テロという過激な行動に走るのであろう。それは一見組織化された行為のように見えるが、結局は将来の見えない自分たちの立場にいらだち自暴自棄になった故に起こしている行為なのではあるまいか。彼等の矛盾をつくことによって何か解決策は見いだせないだろうか。